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Andrej Kurkow /アンドレイ・クルコフ

ペンギンの憂鬱ザポロジェッツSMERT' POSTORONNEGO, (C)1996沼野恭子訳 新潮 2004

『凍えるような寒い土曜日の朝、ニージニー・ラフスキー庭園の近く、ドノエプル川の河岸通りに赤い小型車ザポロジェッツが止まり、中からヴィクトル、ペンギンのミーシャ、セルゲイが出てきた。セルゲイはトランクから、ぎゅうぎゅう詰めのリュックを引っ張り出して、背中にしょった。二人の男とペンギンは、石の階段を凍りついた川のほうに下りていった。
ドニエプル川は厚い氷が張っている。氷の上には釣り人たちが、互いに"礼儀正しい"距離をあけて、じっと動かない太ったカラスみたいに座っている。一人一人がそれぞれの氷の穴のそばにいる。―中略―
ドニエプル川を渡り、それから島の尻尾にあたり細長い陸地を横断した。
「ほら、見てよ!」セルゲイが手で前方を指した。「青い点のようなもの、見えるだろう?」
そちらに行きかけ、とても大きな氷穴が現れ、そのあたりに動物の足跡がいくつも残っているのが見えてくるのが、ミーシャは駈け出し、水しぶきもあけずに滑らかに水に飛び込んだ。』
--COMMENT--
 図書館で偶然みつけたウクライナの作家の、おとぎ話のようなサスペンスというか、ロシアの不安定な体制に翻弄される個人を描く社会派小説なんでしょうね。売れない小説家と動物園で飼えなくなってもらい受けた憂鬱症のペンギン…なんていう切り口の新鮮さと、物悲しいけどやさしい語り口、そして思いもかけない結末…と、はらはらどきどき。こんな物語に出会えてよかったなぁ!!とつくづく本の楽しみを感じさせてくれる一冊。
 引用は、主人公ヴィクトルの友だちセルゲイの車でピクニックにいくシーン。他にはロシア・マフィアの連中の"シルバーのリンカーン"が登場する。(2007.7.14 #489)

大統領の最後の恋レクサスPOSLEDNJAJA LJUBOV PREZIDENTA (C)2004前田和泉訳 新潮 2006

『(2014.10 キエフ)中略
採決の結果は予想以上だった。大統領法案は採択され、即座に発効された。
審議の後、スヴェトロフ将軍が隅のほうに私を呼んだ。彼もここしばらく眠っていないらしい。「電気料金未納者に関する書類を没収命令を出しましょう」と将軍は提案した。「そうすれば、向こうの切り札はなくなります」
「そいつはいい。頼むぞ!」と言って、私は彼を送り出した。
300台のメルセデスとジャガーとレクサスが国会議事堂を後にした。寝不足の野党議員や中道派たちを乗せて、これからそれぞれの家に帰っていくのだ。私は二階の窓から、巣箱を飛び立つ蜂の群れのようなこの情景を眺めた。なんて綺麗なんだろう!
 黄色いヘッドライトが夜明けの薄明かりの中、二本の美しい線を描いていく。車たちは、まるで、遠くの花の匂いにむかって飛び立っていくかのようだ。彼らは花粉をとりに急いでいくところなのだ。』
--COMMENT--
 クルコフの邦訳2作目は、たまたまウクライナの大統領になってしまった青年、それも発疹や政敵に悩まされたり謎の女性との出会い等々可笑しな物語りである点は、前作と同じ。全630ページのこの新潮クレストは厚さが4cm以上と、近年であったなかでも一番タフだったし、青年時代〜副大臣時代〜大統領時代と、大きくは三つの時点がばらばらに出てきて(216章あるそう?!)話の展開をフォローするだけで四苦八苦m(__)mしているうちに、突然なんということもない結末??
 引用部分は、2014年の未来時点で、国会議員の車になんとウクライナでもレクサスが出てくるんですね。他には、黄色のハマー("OO1111HH"というけったいなナンバー・プレート?!)、スプートニク旅行社の"リガ自動車工場製のマイクロバス RAF"など。(2007.7.18 #491)


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