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LANSDALE, JOE R. /ジョー・ランズデール

罪深き誘惑のマンボトヨタTHE TWO BEAR MANBO, (c)1995鎌田三平訳 角川 1996

『「いいさ、そんなことで騒ぎたてなくても。おまえさんはあの子に会ったこともないんだからな。 おまえさんとっては、なんでもないことさ。こんな話を始めるべきじゃなかったよ−そう、あの黒んぼの娘のことだったな」
「フロリダです」
「ああ、そのフロリダだ。あの娘は留置場にきて、いくつか質問をしていったよ。そのあとは、会ってない。町でたまたま見かけたぐらいだ。ガソリンスタンドで、あの小さな車にガソリンをつめこんでたな」「グレーのトヨタでしたね」「ああ、それだ。ごくスマートなやつさ」「ご存じなのは、それだけですか?」』
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「このミス97」海外6位の作品だが、そんなには印象深くなかった。はぐれもののハップとレナードの白人と黒人のコンビが、人種差別の残るテキサスのいなか街で失踪した女性を追う。上は、その街の警察署長との会話であり、失踪した女性黒人弁護士の車がトヨタカローラかしら?会話ばかりだが、ちょー無茶苦茶といった按配で面白い。

ムーチョ・モージョダッジ・ピックアップMucho Mojo (c)1994鎌田三平訳 角川 1998

『おれは古いダッジ・ピックアップのギアをシフトし、穴ぼこと古くなったアスファルトのかけらが散らばる道を丘の上めざして登っていった。太陽は真上近くまで昇り、ピックアップのあせた灰色のボンネットに照りつけるので、おれは目をすがめた。おまけに、開けた窓から吹き込んでくる熱風のおあかげで、サウナにいるみたいに汗をかいていた。あと二時間もすりゃ本当の暑さってやつがやってくるんだぞ、おれはそう自分に言い聞かせた。
三日ほどチェスター叔父さんの家を離れたあとで戻ったときに、おれは自分のピックアップを持ってきていた。古くて乗り心地は悪い車だが、それでも持っていると嬉しい。
最初におれがやって来たときは、レナードが自分の車におれを乗せてくれて、ピックアップは家に残しておいたのだ。この車はトラブルのもとだからだ。トラブルというのは、焼き切れたリングと、安物のガソリンと、修理する金がないことだった。』
--comment--
「罪深き誘惑のマンボ」の前作で、やはり東テキサスを舞台にハップとレナードのコンビが、レナードの亡くなった叔父にまつわる事件を追う。凶暴でで殺伐とした事件の進展のなかでも、二人の固い友情が清涼剤になる。(1999.10.24)

凍てついた七月キャディラックCold in July, (C)1989鎌田三平訳 角川 1999

『二時半ごろ、潜水艦ばりの大きさの、ガタのきた真っ赤なキャディラックがラッセルの部屋の前に停まった。ミラーには赤ん坊の靴と、フォームラバーでできた大きな黄色のサイコロがぶらさがり、フロントグラスには六人の人間と三匹の犬の棒線画のそれぞれの上にバツがしてある手作りのステッカーが張ってあった。車にはカーブ・フィラーがついており、それは運転者が車をおりてドアを閉め、伸びをしてもまだ大きく揺れていた。
「なんてこった」ラッセルが言った。「あれは、ジム・ボブのキャディだ。二十年ものだぜ。おれがムショに入ったときは、新品だったんだ」
ドアのそばで伸びをしている男がみえた。くたびれたカントリー&ウェスタン歌手のようだった。やせて背が高く、ぐったりとした羽を二枚差したくたびれた麦わら帽子をかぶっていた。細かい緑色の縞が入ったカウボーイ・シャツと、どうやら何度も水と汚れをくぐったらしい色あせたジーンズをはいている。
ラッセルがベッドから立ち上がって外に出ると、その男が大声で言うのが聞こえた。「なんてこった。まるで、犬のクソでも嗅いだみたいに見えるぜ」
「病気なんだ」ラッセルがが嬉しそうに言った。
「病気だって! それどころか、死んじまって、どこかの間抜けなばか犬が掘り返したみたいだ。また会えてうれしいぜ。どうしてる?」』
--Comment--
 「ムーチョ・モージョ」「罪深き誘惑のマンボ」より5年ほど前のノン・シリーズものだ。東テキサスの田舎町の額縁店主人、ムショから出所したばかりのラッセル、豚を飼うおかしな私立探偵ジムが徐々に心を通わせ、力をあわせ犯罪者を襲撃することになるのだが、登場人物のキャラクターといい、ユーモアたっぷりの会話、迫真に富んだスピーディな展開がとても気に入りました。"ハップ&レナード・シリーズ"より面白い。引用したキャディラックのほかにも、無免許医者から借りたランブラー、犯罪者のノヴァとコルベット、試乗だけする中古車店のスカイラーク、シェヴィなど(1999.12.23)

テキサスの懲りない面々タクシーCaptains Outrageous, (C)2001鎌田三平訳 角川 2002

『ほどなく機が着陸すると、おれたちはすばやく荷物を受け取り、汗ばんだ人々のあいだをぬって街路にでてタクシーを捕まえようとした。ジム・ボブが運転手と交渉し、乗れる車をみつけた。そのタクシーは、以前は青い色をしていたのだろうが、灰色の塗料のせいで、いまはまだら馬のようになっている。タイヤは使い古しもいいところで、ゴムは祈りの力で貼りついているとしか思えない。
 荷物を入れたトランクは、最近まで魚を入れてあったような臭いがして、座席のドアを閉めるがはやいか、運転手がアクセルを踏み込み、おれたちはいけにえのように車の列の真ん前にほっぽりだされた。
 クラクションが響く。車は猛スピードで信号を突っ切っていくが、信号が赤に変わっても、三、四台はそれをさえぎって走りぬけ、そのあとの車がやっと止まるという状態だった。運転手は、轢いた歩行者の数で得点でも入るかのように、何度か歩道にも乗り上げ、実際に、買い物袋を下げてゆっくり歩いていた女の人の尻をかすめたようだ。車がぶつかったのか、それとも彼女がとびのいたのか、どちらかは分からなかった。彼女はただぶっ飛んだ。長めの青いワンピースがはためき、片方の靴がとび、ロープの持ち手で腕にかかっている買い物袋が揺れた。
 バックシートの左の窓から見ると、ガソリンを入れられるほど隣のタクシーに近いように見えたが、それでも足りなかったらしい。運転手はまだ満足していなかった。さらに近寄ったので、隣のタクシーの客の老婦人が窓を開ければ、おれと熱烈なキスがかわせるぐらいになった。老婦人は心臓発作を起こしているか、そこまではいかなくとも、ひどい下痢を我慢している様子だった。
 おれをちらりと見て、ぐっと息をのんだ。おれが笑いかけたとき、こっちの運転手が、千マイル四方の運河全体に響き渡るような音で、クラクションを激しくたたいて鳴らし、ワープするように一気にスピードをあげて隣のタクシーから離れ、デブ男の尻の座薬ほどぎゅうぎゅうにつまった車の列を縫って車線を代え、クラクションを鳴らし、鳴らされ、プレジデント・インターコンチネンタルに到着するまでそれをつづけた。』
--Comment--
 ランズデールの「ハップとレナード」シリーズ最新5刊目。下品だけど、とってもしゃれていている会話の面白さといったら、もう!こんなに楽しめてよいのかしら…と思うほど、ランズデールを見直しました。ついつい事件に巻き込まれ、ほっておいてもよいのだけど、不遇な被害者をみると、いてもたってもいられずワルに対抗する羽目に。
 上の引用は、この作品のテイストが伝わる部分で、メキシコシティに着いて仲間とホテルに向かうシーン。ハップのおんぼろピックアップ、パサデナの仲間の探偵ボブの「30年近い古さの張り出しアンテナで飾った血のように赤いキャデラック」、メキシコの探偵セザールの「ジャガーと、古ぼけた土色のプリマス」などが登場する。(2003.8.11)

人にはススメられない仕事おんぼろシェヴィー・ノヴァRumble Tumble, (C)1998鎌田三平訳 角川 2002

『おれはシャワーをあび、もう一杯コーヒーを飲むと、納屋へ戻ってレナードがサンドバッグを殴るのをしばらく眺め、それからブレットの家へおんぼろシェヴィー・ノヴァにのって出かけた。  このボロ車を手に入れて三カ月ほどだが、すでにスクラップ置き場行きも時間の問題だった。騒がしくガチャガチャいって咳き込むような音をたて、胃腸の悪いおいぼれよろしく、尻から黒いガスを噴出している。おれはこの車に乗っているところを見られるのが恥ずかしかったし、空気を汚染しているのも恥ずかしかった。
 おれのピックアップが竜巻で壊されたあと、300ドルだしてこの走る災難車を買ったのだが、いまの状態を見るにつけ、299ドルばかり払いすぎたと感じる。
 ブレッドの家に向かいながら、なんて言おうか考えていた。なにをすべきかとも。思いつくことは全部しっくりこなかった。いままでどおりにつづけていくこともできるんじゃないだろうか? しかしそうしたら、結局は彼女を失うことになるだろう。どちらかに心を決めなければならない。そのときだしぬけに、おれはなにが問題か気づいた。
 おれは自分に自信がないのだ。』
--Comment--
 ハップとレナード・シリーズ『テキサスの懲りない面々』の前作。「おれ」ことハップの恋人ブレットの娘を売春宿から救出に珍メンバーが繰り出す。顔ぶれは“東テキサスの用心棒、ホモの黒人、元ミス・ヤムイモ、6フィート4インチで太りすぎの、引退した殺し屋兼牧師、それに気取った赤毛の小男―あと足りないのは、中古車セールスマンと、猿と、手回しオルガン弾きといったところ”
 さらに加えて、レナードになついてしまうアルマジロと、牧師が日本人に売るために地面の穴からへんちょこな機械で吸い出されるプレーリードッグなんかも登場する…あんまり面白いので、読みながらへらへら笑ってしまい、家人から注意されてしまう始末。(2003.9.13)

ダークライン赤と白のサンダーバードA FINE DARK LINE, (C)2003匝瑳玲子 訳、早川 2003

『映画館のすぐそばまで来たとき、鮮やかな赤と白のサンダーバードが縁石のところで停まった。ドアが開き、映画スターのような長身の男が車から降りてきた。薄茶色の髪はいくぶん長めで、ティモシーと同様の巻き毛はずっと自然な感じにカールしていた。
 男はサンダーバードの助手席側にまわりドアを開けた。女が出てきた。ふんわりと膨らませた、肩までの長さの脱色したブロンドに、タイトな金色のサブリナ・パンツ、襟にフリルのついた白いブラウス、アンクル・ストラップのついたハイヒールのサンダルといった装いで、女は車の前にまわり、縁石に足をかけた。とても若い女だった。

「きっと、あの人だわ」とキャリーは言った。
「スティルウィンドのこと?」
「「そうよ。それでもって、あれは彼のガールフレンド。ティムが話していた子よ。可愛さだったら、あたしも負けてないと思わない、スタンリー?」
「姉さんは、レモネードのコップの陰に隠れたほうがいいくらい、ブスだと思うけど」
「おもしろいことを言うじゃないのよ、スタンリー」
「ティムは、彼の車はヴェットだって言ってなかった?」』
--Comment--
 MWA受賞作『ボトムズ』の路線のサスペンスであり、テキサスの片田舎町での少年スタンリーのひと夏の冒険がテーマ。そう、スチーヴン・キングの『スタンド・バイ・ミー』を想わせるストーリーだが、1958年当時のアメリカの暮らしぶり…ランズデール自身が体験したのであろう…が、よく伝わってくる。
<・・黒人も女性も、自分達の立場をわきまえていた。"ゲイ"とい単語は、まだ"ハッピー"の同意語にすぎなかった。商店は日曜日に休業し、われらの爆弾は敵の爆弾より大きく、米国陸軍は無敵だった。無知な私は、世界はすべて順調にいっているものと思っていた。1958年は、そんな時代だった。・・> (2003.9.23)

サンセット・ヒート黒のフォードSUNSET AND SAWDUST (C)2004北野寿美枝訳 早川 2004

『「こんにちは、プラグ」サンセットは言った。
「わあ、あんた、美人だね」プラグが言った。
「ありがとう」
「助手はもう一人いる。トゥーティーだ。いまは外に出ている」
「表の<駐車禁止>って書いてある場所に車を停めたわ」サンセットは言った。
「気にするな」ルースターが言った。「あれは公用車専用の駐車場だ」
黒のフォードよ」
「黒のフォードなんて山ほど見かけるな」ルースターが言った。
「メモを書いて窓につけておいたほうがいい?」
「いや、いい。わかるだろう」
ヒルビリーが箱を小脇に抱え、サンセットと保安官事務所を出た。人ごみを縫いながら、歩いて裁判所へ向かった。フェスティバルに浮かれて仮装した女かもしれないというような目でサンセットのバッジを見る者が多かった。』
--Comment--
『ボトムズ』と同じくテキサスの片田舎を舞台にしているが、大恐慌直後の1930年代…保安官とか治安官がまだ腰にピストルをさげていた頃、女性治安官が主人公として、黒人差別から起きた事件を追求する… ほとんどが貧しく埃っぽい生活だったけど、黒人も犯罪者も大らかだったね。結局は家族の絆をテーマにしたウェスタン小説。
 さすがにカウボーイの馬ではなく、車がないと治安官(シェリフではなくて、原文では"constable";巡査に近いようだ)の仕事は勤まらなかった。原文タイトルの"sawdust"は、昔し 酒場などの床にまいた“おがくず”であり、ぼろをさらけ出す、台なしにする…などの場合に使われるようだ。(2005.12.14 #388)

ロスト・エコーメルセデスLOST ECHOES (C)2006北野寿美枝訳 早川 2008

『ハリーはタッドに電話をかけたあと車でケイラの家へ行った。
タッドが到着すると、ケイラが玄関ドアを開けた。「おれの車の上に犬が立っている。あんたの犬か?」
「いいえ、ウィンストンといって、隣の家の飼い犬よ」
「おれのメルセデスに乗っていやがる」
「長居しないわ」
「断じてそのほうがいい、おっと失礼。あんたがケイラだね」
「そうよ」
「いい香水だ。つけすぎだが、いいにおいだ」
タッドは肩越しにうしろを見た。「今度は車の屋根に上がったぞ」
「それで気が済むのよ」ケイラが言った。
「おれが犬好きで、あいつは運がよかったな」
タッドがなかに入り、ケイラと握手した。「ハリーの言ったとおりの美人だな」
「彼がそんなことを?」
「口には出さなかったが、言ったも同然だ。それに、あんたはいいにおいがするともいってたよ」
ケイラがドアを閉め、隣できまり悪そうにしているハリーを見た。コーヒーをもと用意したあと、そわそわと歩き回っていたタッドが言った。
「あんたはダーツをするようだな。ほとんど外している。ドアがスイスチーズのように穴だらけだ」』
--Comment--
霊能力をもった少年が成長しようやくその呪縛から逃れるようになってきた矢先、以前隣同士で親しかった女友達から彼女の父親の死亡事件の真相さがしを頼まれる。酔っ払いのおかしな武道家を交えて3人が悪戦苦闘しなが犯人を追い詰める。奇想天外でユーモアたっぷりのおすすめホラー・ミステリ。
 引用は、その3人がはじめて顔を合わせるシーンで、車がくると上りたがるきてれつなワンこうも何度も登場して準主人公かしら。(2010.8.25 #647 TWMUにてリモート入力)

アイスマンシェヴィFreezer Burn (C)1996七搦理美子訳 早川 2002

『というわけで、独立記念日の夜、三人は盗んできた白のシェヴィに乗り込んで、ファットボーイは運転席、ビルとチャプリンはそれぞれ助手席と後部座席、花火の屋台に向かい、店が閉まる十時数分前に到着した。
 ファットボーイは車に残った。ビルとチャップリンはローンレンジャーのマスクをつけると、車から降りて屋台に向かった。そこではベッドカバーにすればバングラディッシュの国土の大半を上に載せて揺り動かすことができそうな特大サイズのムームーを着た太った女が、ローマ花火と火口とマッチを買っていた。<中略>
 マスクとビルとチャップリンに最初に気づいたのは女のほうだった。「ねえ、今夜は独立記念日よ、ハロウィーンじゃなくて」
「知ってますよ、奥さん」ビルは答えた。「こいつをつけたら少しはかっこうよく見えるかと思ってね」 「ふうん、でもそうは見えないわ」
「そうだろうとも、そういうあんたはまるで陸に上がったクジラみたいだ」チャップリンが言った。』
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 読みもらしていた東テキサス沼地もの。金に困ったビルが仲間と花火屋を襲おうとする(引用のところ)が、失敗し沼地へ逃亡するが、ヌマヘビに追いかけられたり蚊の大群に体中をさされ奇妙きてれつの腫れた顔つきになってしまう。そこを旅回りフリークショー(奇形の人を見世物にする)の座長に救われ彼らと旅をする。ここから、俄然ホラー描写が多くなるものの、タイトルになったキリストの遺体とも言われるアイスマン、ビルとドッグマンのヒューマンなつきあい、最後は全ての善を破壊しようとするイヴ…とても象徴的な物語となる。
 引用に出てくる車以外は、座長のシェヴィ・ステーションワゴン、モーターホームなど一座の車がたくさん。(2010.9.3 #649 TWMUより更新)


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