lagoon symbol
PAUL LINDSEY /ポール・リンゼイ

殺戮ルミナなどFreedom to Kill (C)1997笹野洋子訳 講談社 2000

『三人の仲間がすばやくヴァンのほうに歩いていき、重そうなバッグを中に入れてから乗り込んだ。デヴリンはマイクを手に取った。「行動開始だ四人のターゲットが車に乗った」
バックで通りへ出たヴァンが西に向かおうとしている。「出て行った。メーンストリートを9へむかっている。だれか代わってくれないか。ナンバー1が出てきたとき、こっちを見てたから」―中略―
 ヴァンの助手席に座ったバトラーが、うしろを見ようとサイドミラーを直した。ウィルソンのほうを見ると、前方の車にしか注意を払っていない。「このあほ、つけられているのがわからんのか!」 ウィルソンはあわてて自分のミラーを見た。
バトラーはすぐには答えず、後ろの車の流れを調べている。「ダークブルーのルミナとグレーのグランダムだ」』
--COMMENT--
 FBI特別捜査官マイク・デヴリン・シリーズ第3作。FBI捜査官だったリンゼイが自らの経験、というより期待?をもとに書いているため、主人公があまりに格好よく描かれすぎて、犯人の追跡をいとも簡単にやってしまう面が否めないなぁ。
 引用は銀行強盗犯の車をFBI捜査官たちが追いつめていくシーン。シェヴィー・ルミナは地味っぽいスタイルでFBIカーとしてぴったり。(2007.7.29 #494)

目撃メルセデスWitness to the Truth (C)1992笹野洋子訳 講談社 1993

『パトカーが去った後、デヴリンは、7万ドルはするテイラーのメルセデスに手をおき、その非のうちどころのないドイツ製鋼鉄を保護した八重のペイントの被膜をなでた。世界中のどんな悪路をも走り抜ける高性能で強力なマシンの感触だ。だがデトロイトの街には、さすがのドイツのエンジニアも予測し得なかった障害が待ち受けている。
 この車が結局は弁護料としてテイラーの弁護士のガレージに落ち着くことは知れている。その弁護料として巻き上げられるにちがいない。そんなことはさせない、とデヴリンは心に決めた。―中略―
 メルセデスをスタートさせて、自分の車の横を通り過ぎ、やや交通量の多い交差点の近くに止めた。エンジンはかけたままにして、デヴリンは自分の車まで歩いて戻った。冷たくよどんだ朝の空気だ。ベーコンの焦げる甘ったるい匂いがする。』
--COMMENT--
 FBI特別捜査官マイク・デヴリン・シリーズの第一作で、一匹狼捜査官の硬骨なキャラクターづくりが行われ、第2部の少女誘拐事件とFBIのタレこみ屋リスト流出事件を追う特別チームの捜査活動につながる。スピーディーだし、捜査手法の内幕などとても興味深かい。
 引用は、コカイン売人のメルセデスを見つけ出し、デヴリンが単独で逮捕したあと、その車を路上に放置し街のギャング少年たちに処分させてしまうシーン。こんな格好のいい場面がたくさん出てくる。(2007.8.6 #496)

宿敵キャディラックCode Name: Gentkill (C)1995笹野洋子訳 講談社 1995

『「つけてやがる」
ライノは、狭いフロントシートで振り向こうとしても難しかったので、ボクシングをするように頭を左右にひょいと動かして、サイドミラーで後続車を見ようとした。「たしかか」
「こっちが130で走っているだろ。後ろにも130で走っているやつがいる。だいぶ後ろだが、つけてるぜ」
「なんかヤバいもんもってんのか」スキャルパが訊いた。
「いや、きれいなもんだ」
「ならかまうな。一日中でもおれたちをつけてりゃいい。こっちは、なんにもしちゃぁいねえ」
「冗談じゃねえぜ。おれたち、FBIに目つけられているうだぜ。あいつら、こっちを連邦のリゾートに招待するつもりだってこと、忘れたのか」
 いちばん左の車線にいたジェラルディのキャディラック・フリートウッドは、135キロにまでスピードを上げていった。バックミラーを調整して、視界の端にいる小さなブルーの車が同じようにスピードを上げるのを見守る。ジェラルディはチャンスを見つけた。真ん中の車線の流れが切れて、右側に出口が近づいてきた。いきなり車を右側によせて2車線を一気に横切り、出口の直前で右の路肩につけると急ブレーキを踏んだ。停車した瞬間に車から出て、すぐ横を唸りを上げながら走り去るブルーの車に手をふった。ジェラルディは笑いながら車に戻った。』
--COMMENT--
 FBI特別捜査官マイク・デヴリン・シリーズの第二作。同僚の捜査官が次々と何者かに殺され、もう一方では子供病院を爆破予告する恐喝事件が発生し、支局長から干されているデヴリンが隠れて捜査を進める。無能な支局長について同僚たちが仕掛ける悪ふざけが迫真ものだし、よくできたミステリーとして改めて著者のストーリーテラーとしての実力に感じ入りました。
 引用は、射殺された捜査官が接触していた犯罪者を追跡するシーンで、FBI監視班はまかれてしまうが、デヴリンが追いつめる。この後、車内に閉じこもって聴取に応じようとしない二人組に車のヴェンチレーターから暴徒鎮圧用メースを吹き込みいぶりだすなど、もう大ケッサク。(2007.8.8 #497)

覇者マスタングThe Fuhrer's Reserve (C)2000笹野洋子訳 講談社 2003

『ファロンは心臓がどくっと大きく三つ打つのを感じた。車を停止させるのは、とくにハイウェイではつねに危険が伴う。何が起きるかわからないのだ。しかし、今すぐそれをやらなければならないし、しかも失敗はい許されない。マスタングのアクセルをいっぱいに踏み込むと、できるだけ何気なく見えるようにクライスラー・ニューヨーカーの横を通過した。
 アクセルをはなしたときは、犯人の車の100メートルほど前に出ていた。
「いまだ!」ファロンはマイクに向かって叫んだ。バックミラーのなかで、FBIの車が4台、隊列を崩しクライスラーめがけて猛スピードで飛ばしてくるのが見える。一台がクライスラーの左に走りこみ、エヴァンズの前に接近すると、エヴァンズは右に急ハンドルを切り右側に突っ込んできたFBI 車は頑丈なクライスラーの後部に接触し、たまらず180度スピンして高速道路脇の斜面に乗り上げた。』
--COMMENT--
 FBIシカゴ支局の捜査官タズ・ファロンが、ナチス略奪絵画を行方を追う。ネオナチス側から絵画回収を任された血も涙もない強盗殺人犯が、絵画を隠し持っていたドイツ系移民を次々と殺すのだが、FBI捜査官より早く、隠し場所についての暗号を解いてしまう?! リンゼイの作品のなかでは凡作かしら。
 引用は、ユダヤ系の実業家の息子が誘拐されて犯人を追跡するプロローグ部分。ファロンのマスタングのほか、犯人グループが調達するシボレー・カプリス、盗難車のマツダ・ミアータ、リンカーン・コンチネンタルなどが登場する。(2007.8.13 #499)

鉄槌トヨタTraps (C)2002笹野洋子訳 講談社 2005

『犯人が指示した行き先は、シカゴのダウンタウンにある地下の道路、ローアーワッカー・ドライブだった。こうなるとヘリからは、ツィーヴェンの車を追跡できない。そして最後の指示は、身代金である切手のコレクションと携帯電話を赤いトヨタの下に置けというものだった。−中略−
 二人がベルウッドに着いたときキンケイドがいった。「ここから右に2ブロックいたところらしい」オールトンはFBIの車を。携帯が隠されていた公衆電話から3メートルほどのところに停めた。二人が外に出ると、ボーダーコリーが期待をこめてキンケイドを見た。オールトンが後ろのドアを開けてやると、犬は外に飛び出して暖かい空気を鼻で調べている。
「犯人のやり方をどう思う?」オールトンが訊いた。
「相当手が込んでるな。こういうときの我々の手順を知り尽くしている感じだ」』
--COMMENT--
 これまでのリンゼイ作品とはまるでタッチが違っていて驚きました。二人組のFBI捜査官が主人公で、一方が才能はあるけどドン底の生き方で、片やがん治療で片足を切断したばかりの真面目がとりえの黒人捜査官。この対照的な二人の掛け合い、そうそう引用箇所にでてくるキンケイドのボーダーコリー(なんと名前もいいかげんな"B.C."だった)も加わって誘拐殺人犯を追跡する。ハッピーエンドにならない結末もたいへん味わい深いものとなっている。おまけで本書の最終センテンスを以下に。
『外に出ると、サラが犬に棒切れを投げてやっていた。白と黒のボーダーコリーが疲れも見せず飽きもせず、何度もその棒を取ってくる様子を、オールトンはしばらく眺めていた。
 草地の先には広葉樹の木立が連なっている。燃え立つような秋の紅葉は終わっていた。みずみずしい緑、鮮やかな赤、きらめく黄金色はもうどこにもない。あるのは、目の粗いツイードのようなごつごつした冬の肌だけだ。まもなくくる冬の季節だが、ベンジャミン・オールトンにとって、もはやそれは恐れるに足るものではなくなっていた。』(2007.8.14 #500)

応酬キャディラック、リンカーンThe Big Scam (C)2005笹野洋子訳 講談社 2007

『そのパズルがなんであるかは、まったく分からないが、そのかすかな希望をを実現させるには、ダッチ・シュルツことアーサー・フレゲンハイマーの宝箱さがしを最後までやり遂げることがぜひとも必要なのだった。「みんな車に戻れ。来る途中で見たアウトドア・ショップにいってキャンプ用品を手に入れよう」とパシリがいうと、デラポルタが彼には珍しく急いで車のところに行って乗り込んだ。
「そんなに急いでどこへ行く?」パシリが尋ねた。
「酒屋に、おれのキャンプ用品を仕入れてこなきゃな」
あと二時間ほどで日が沈むというとき、三台のキャディラックと一台のリンカーンがフィーニシアのルート28から入った場所にあるスリーピング・ベア・キャンプ場に乗り入れた。ガス・デラボルタがリンカーンの運転席から出ると、左右に背筋を伸ばしてストレッチをする。マニーも助手席から出てきた。
「おれのせいだってのかよ、ガス。どのホテルも満室だったなんて分かる訳ないだろう。トミー、今日は何の日だっけ」
トミー・アイダはパシリのキャディラックから出たところだった。「ワシントン・アーヴィング・フェスティバル」
「何だそのワシントン・アーヴィングってのは」デラボルタが訊く。「公民権運動かなんかの野郎か?」
「やれやれ」アイダがいった。「二十年間眠ってたつて男の話、知ってるだろ。アーヴィングの<スケッチブック>に出てくるリップ・ヴァン・ウィンクル」
マニーのほうを向いてデラボルタがいった。「こっちはお前をリップし<切り裂き>たいよ、9ミリでおねんねさせてな」』
--COMMENT--
 いわくつき・掃き溜め・変り種捜査官ばかりが集まったニック・ヴァンコー秘密捜査班が舞台となって、各人が引きずってきた事件をチームで追ったり、マフィアの内紛につけこんでワナを仕掛けたり…それぞれのサイドストーリーがショート・ショートのように楽しめる。
 このマフィアの支部の連中もヘンな構成員ばかりだが親しみをもって描かれていて、引用は、昔のマフィアの宝物探しにでかけホテルがとれずにキャンプする羽目になったシーン。そこに来ていたボーイスカウトの少年たちに火の起こし方を教わったり、ギャングの"怖いお話し"を聞かせたりする場面はまさにニンマリもの。
 ゲイバーに入り浸りの派手な捜査官の"グレーのアウディのオープンカー"、ドラッグ関係で没収しておとり捜査に使った後わざと大破させるベンツなども出てくる。(2007.8.29 #503)


作家著作リストL Lagoon top copyright inserted by FC2 system