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LUDLUM, ROBERT /ロバート・ラドラム

メービウスの環ニッサン・アルティマ、トーラスTHE JANSON DIRECTIVE, (C)2002山本光伸訳 新潮 2005

『「あれはあんたのニッサン・アルティマかい?」
「交換したくてね」
ジェドは肩をおとした。募金を求められたような商人のようだ。「どこにでもある車だよ。おれは好きなんだ。あいつには弱くてね。全財産をつぎこんでしまいそうだ。ただ、このあたりの連中は日本車を敬遠している。走行距離は?」
「5万マイル」とジャンソン。「それと少し」
さらに気落ちした様子だ。「うん、交換時だな。6万マイルぐらいでニッサンのトランスミッションはいかれてくる。そうなると目もあてられない。みんな同じことを言うさ」
「なるほどね」ジャンソンは中古車業者のあからさまな嘘にうなずいてみせた。悪徳業者ぶりをここまで見せてくれると親愛の情すらわいてくる。
ジェドは栗色のセダンを指さした。「あのトーラスはどうだい? 時代を超えた名車だよ。走りも素晴らしい。最新車には、絶対使わないような特別装備を備えたものもある。まったく意味のない、役立たずの装備だ。でもこのトーラスはオートマチックでラジオつき、燃費もいいし、いつでも走り出せる状態だ。オイル交換は三千マイルごとに、ガソリンはレギュラー。笑いがとまらないぞ。本当さ。笑いが止まらない」
最新型のアルティマを中古のトーラスと交換し、さらに四百ドルを請求してくる販売員に、ジャンソンはひたすら感謝した。』
--COMMENT--
 ミステリを読み始めた20年前ごろ、陰謀・暴虐ミステリの旗手=ラドラムとして、その当時からぶ厚く読了するのにエネルギーがいる、を読みふけったものだ。本書も、秘密結社、ベトナム戦での暗い影、クールな殺人マシンのヒーロー、そしてそのヒーローが何度も執拗に命を狙われるターゲットになり追いつめらる…という、ラドラムもののプロットをきちんと踏襲していながら、けっこう読ませてしまう作家の力量はたいしたもの。
 今は富豪となったロシア人元会計士の"ラズベリー色のベントリー"、ジャンソンを師とあおぐ女性スナイパーの"黄色のフィアット"、陰謀組織の副理事長の"スモークシールドのリンカーン・タウンカー"、その追跡者の"青いルノー"、国務次官の"黄色のシヴォレー・コルベットZ06"、レンタカーのランチャとカムリ、米国政府の秘密基地のレンジ・ローヴァーなどなど登場車も飽きさせない。(2006.1.13 #394)


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