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LYALL, GAVIN /ギャヴィン・ライアル

裏切りの国エスコート・ワゴン、マツダJUDAS COUNTRY, (c)1975早川,1992

『彼の車は新しいエスコートのステーション・ワゴンで、彼は損益勘定口座のように慎重に運転した.ただし、このような運転ぶりは、地中海東部と同様キプロスでもさして珍しいものではなかった.
 ニコシアに通じるナイン・ロードに出ると、おれはたずねた.
「ところで、おれの飛行計画はどうなるんだい?」
「それは私が決めることじゃない」彼は一瞬ためらってから、注意深く言葉を選んで言った.「ハーボーン・ゴフ社はこの飛行がなんのためのものか判断しかねているようだ」
「シダース・キャスルの開業パーティのためにベイルートまでシャンペンを1ダース運ぶんだ」
彼は顔をしかめた.「いつもシャンペンを飛行機で運ぶのかね?」「そんなことはないだろう.多分、前もって注文して置くのを忘れたんだろう.だがどうせこの飛行機は飛ぶことになっていた.これを利用しても不思議あるまい.おれはレバノンに滞在して、旅行ライターやVIPの招待客を乗せて飛び、各地を見物させることになっている.キャッスル・インタナショナルお得意の行き届いたサービスってやつさ」』
--COMMENT--
銃器の輸送を請け負うパイロットのロイ・ケイスがキプロスに着陸した時から中世の宝剣にまつわる事件にまきこまれる.厳しいまでのモラルを貫き通すが、なぜかむなしさを残す人物像を表現したまさにライアル独特の“味”を十分感じさせる冒険小説である.
 ライアルの他の作品と同じく登場人物を意識した車が数多く表現されており、上記の管財人のエスコート、ホテルのフロア・マネージャーのVW、ニコシア警察警部のマツダなど普通の車がさりげなく登場する.
 また、ライアルお得意のスリルあふれる飛行機のシーンも楽しい.今回は“ビーチ”となっているが、双発機なので多分ビーチ・バロンあたりではないかと思います.(93/02)

砂漠の標的英国戦車MBT90UNCLE TARGET, (c)1988早川,1990

『彼はティンブレルに自分の考えを告げ、戦車を始動するよう命じた。
それからピアーズを自分よりさきにハッチへ導きいれた。
車長席の後ろ、砲塔バスケットのフロアに、どうにかピアーズ一人分のスペースがあった。 アル・ハメディが、主砲発射のさい自動給弾機や、後退する砲身に触れることの危険を不気味に警告してから、また自分の前の小さなブラウン管に目を凝らした。
マクシムが、それがなにか聴こうとしたとき、エンジンが轟然とよみがえった。
「車長、誘導してくれないか」ティンブレルの声がした。
「どうも赤外線潜望鏡の調子が悪くて、ヘッドライト無しではよく見えない」
 マクシムは座席の上にたって、指示を与え始めた。
 戦車は崖崩れで散らばった岩石を踏んで鈍重に走り出し、比較的平坦な岩盤にでるとスピードをあげた。』
--COMMENT--
対イラクのデザートストーム作戦が進行中の今日には、砂漠、そして戦車の戦いは生々しく現実感を呼び起こす。
 この小説は、冒険小説としてはとても珍しく戦車を舞台として繰り広げられるが、頭の一部をのぞき最初から最後まで一台のMBT90に乗って戦う様が描かれており、戦車マニアでなくとも、くるまファンとしても十分堪能できる面白さがある。
なお、そのほかに登場してくる自動車はランドローバーと、オーソドックスな出番である。(91/01)

誇りへの決別ダイムラーFLIGHT FROM HONOUR (c)1996中村保男・遠藤宏昭訳 早川,2000

『ランクリンはコリナを現場から引き離した。「オギルロイがどこに行ったか知っているか?」
「いいえ、わたし、空のほうばかり見ていて・・」
「犯人を追って行ったに違いないんだ」ランクリンは少し考えたあとで言った。「車がいる」
「君は運転できるか?」「当たり前でしょう」
 ランクリンとコリナがダイムラーのところまで来たとき、二人の警官が人混みをかきわけて駆け足で近づいてきた。
 車には電動始動装置がついていたが、車自体が早く出発するのをいやがっていたせいか、コリナが使い方を熟知していなかったせいか、結局ランクリンが重たいエンジンを手で始動する羽目になった。コリナの隣に腰を落ちつけたとき、ランクリンはぐっしょり汗をかいていたが、ドアを締め切った車内は蒸し風呂のようだった。ランクリンの体温は自動車レースコースのまわりにいる観客によってさらに上昇した。観衆のほうは、こんなときにでていくやつは許せないと思っているにちがいなかった。それやこれやで、出口に通じるトンネルに辿り着いたときには、ランクリンの計算によると、優に五分はオギルロイに遅れをとってしまっていた。』
--COMMENT--
 1993年の『スパイの誇り』でスタートした「ランクリン・シリーズ」の第二作。英国情報部のランクリン大尉とコンビのオギルロイが、大戦前年の1913年のオーストリア領トリエステの分離、イタリア帰属の謀略の狭間で活躍する。ちょうど、実用化が始まったばかりの単葉機が主役になっていて、航空小説の趣きがある。とくに、操縦を習ったばかりのオギルロイが、正パイロットの怪我で急に操縦しなければならなくなるシーンが圧巻。(2000/06/18)


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