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Margolin, Phillip /フィリップ・マーゴリン

葬儀屋の未亡人ヴォルヴォTHE UNDERTAKER'S WIDOW, (c)1998加賀山卓郎訳 早川2000

『マルトノマー郡裁判所は1914年に建設された。当時は車もほとんどなく、駐車はどこにもできたので、わざわざ車庫を設ける必要はなかった。年長の判事は、裁判所前の公園を横切ったさきの警察ビルの地下駐車場スペースを与えられていたが、クィンの場所は、裁判所から3ブロック離れた郡が借りているスペースだった。
 その入口に車をとめ、スロットにプラスティックのカードを差し込んだ。鉄のバーが上がり、車を乗り入れた。彼の駐車スペースは一番下の階の入口から遠い端にあった。上の階から降りてくる傾斜路の下にあるため、天上は低く、その角はいつも暗い。
 クィンがヴォルヴォを停めた時には、あたりにはほかの車はなかった。夜の9時以降であることを思えば驚くにはあたらない。警備員が駐車場を見回っているのは知っていたが、姿は見えなかった。』
-- COMMENT --
 久しぶりに読んだマーゴリンだが、緻密なプロット…もうこれでもか、これでもかというように推理が絡み合う本格"法廷ミステリ"だ。主人公のクィン判事の車がヴォルヴォであり、約300ページの本書で一ヶ所だけ車名がでてくるシーンを紹介しました。(2003/11/16)

暗闇の囚人チェロキーAFTER DARK, (c)1995田口俊樹訳 早川 1996

『バリーはチェロキーをマカダム・ブールヴァードに乗り入れ、ポートランドのダウンタウンに向かった。道はウィラメット川のそって走っており、川遊びに興じる人たちのレジャー・ボートが見えた。バリーは、週末を愉しそうに過ごすそうした人たちを羨ましそうに見やったが、トレーシーのほうはボートさえ眼に入っていない様子だった。
「どうした?」とバリーは尋ねた。
「えっ?」
「どうしたって訊いたのさ。グリフン夫人の家を出てからきみはまだ一言も口をきいていない」
トレーシーはただ黙って首を振った。「おいおい、僕たちはチームじゃないのか。何を思い悩んでいるんだね?」
「わたしたちの依頼人のことよ」
「彼女がどうかしたかい?」
「わたしには彼女が信用できない」』
-- COMMENT --
 書評どおりの“徹夜本”で、もう一気に読み進まざるをえない面白さ! 死刑訴訟で負けたことがないというスーパー弁護士が請け負った事件で、その事務所の女性アソシエイト、トレーシーが事実の微妙な食い違いに気づき、訴訟の方向が大転換する。引用にでてくる同じ事務所の調査員バリーの車の名称が一回だけ出てくる。(2003/12/15)

炎の裁きポルシェThe Burning Man, (C)1996田口俊樹訳 早川 1998

『ブラン・マフィンのくずがグレーのアルマーニのズボンの上に落ちた。彼はそれを払って、カフェ・ラッテをひとくち飲んだ。
ピーターはコンドミニアムに住み、消防車のような赤いポルシェを乗り回し、<ヘイル・グレーヴス・ストロブリッジ・マーカンド&バーレット法律事務所>に勤めて四年になる弁護士で、6桁に近い年収を得ていたが、それだけの収入があっても、生活費は足りたことがなく、今はいくいらか債務超過にもなっていた。
彼がリチャード・ヘイル―ヘイル・グレーヴス法律事務所の創設代表弁護士のひとりで、オレゴン州法律家協会の会長経験者―の息子であることは、誰もが知っていたから。』
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 マーゴリン5作目は、この引用部分(小説の冒頭)に示されたような頼りがいないオレゴン州ポートランドの二代目弁護士が、自分の扱った事件で大きな失敗をし、片田舎のウィタカーに左遷も同様に逃れて扱うことになった知的障害者ゲイリーの殺人容疑の弁護で自分を見出してく。
この作品も息をつかせず読みきりたくなるようなプロットがしっかり組み込まれていた。(2003/12/19)

黒い薔薇黒いフェラーリGone, But Not Forgotton (C)1993田口俊樹訳 早川 1994

『いかにも不吉な空模様だった。分厚い黒い雲が西のほうからすざましい勢いで押し寄せてきていた。ダライアスは黒いフェラーリのドアを開け、アラームを切った。あの女はあとでもっと痛みつけてやろう。おれのことが決して忘れられなくほどとことん痛みつけてやろう。彼はそう思ってひとり笑みをもらし、車を出した。そのときモーテルの駐車場の片隅からかれの写真を撮った者がいたことには、気づきもしなかった。
ダライアスは、マークワム橋を渡ってポートランドのダウンタウンに向かっていた。激しい雨のせいでウィラメット川にボートが一艘も浮かんでいなかった。ただ、錆びついたタンカーが一艘、嵐に逆らってスワン・アイランドの波止場のほうへ向かっている。川の向こう岸には、スカイブリッジでつながった機能的で近未来的なビルと古い建物が、渾然一体となって林立していた。』
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 3作目は作者のベストと称される作品ときいて読み、たしかに読者を最後まで惹きつけるパワーは、並大抵のものではない計算尽くされたエンターテイメントに仕上がっていた。c だいたい"黒いフェラーリ"ときたら、なにかもう無事ではすまない予感もしてくる。(2003/12/23)

氷の男300SELThe Last Innocent Man (C)1981,1995田口俊樹訳 早川 1997

『「どれもよく似ているのに、あなたは証拠7号、8号、9号は300SELではないと断言しました。どうやって見分けたのですか?」
「証拠7号のベンツは1981年の300SDですが、さきほども申し上げたとおり、300SELとの最も明らかなちがいは、車体の全長が4インチ短いということです。前と後ろのドアと窓を見てください。300SDでは前も後ろもほぼ同じ大きさです。が、300SELのほうはホィール・ベースが長いぶん、よく見ると後ろのほうが前より少しだけ長い。しかし、それがわかるのは私がこういう仕事をしているからであって、特にベンツに関心のない人が気づかれることはないでしょう。
 証拠8号の1985年の380SEもやはり、300SELより短く、またホイールのデザインが少し違ってきます。300SELはソリッド・ディスクで、ホイールキャップも普通の位置にありますが、380SEのほうは、燃料タンクの蓋ほどの大きさのキャップが中心にある凹面のディスクです」 「では、ウォルシュさん、1991年の300SELと証拠9号の1987年の420SELとの識別可能な相違点は、どこにあります?」
「どこにもありません。専門家でもこの二つのモデルを見分けることはできないでしょう。私に分かったには、私がその写真を用意したからです」
「写真に写っているこの4つのモデルの売れ行きに違いはありましたか?」
「いいえ、どれもそれぞれの年にだいたい同じ台数が売れました」
「それでは、これまで問題にした4つのモデルで一番人気のあるカラーは何ですか?」
「ベージュです」
デイヴィッドは振り返り、モニカに笑みを向けて証人に言った。「ありがとうございました、ウォルシュさん。以上で尋問を終えます」』
-- COMMENT --
 婦人警官殺しの容疑で逮捕された弁護士の弁護を引き受ける"氷の男"デイヴィッドが、犯人の車が300SELと断定する検察側に、いかに識別しにくいベンツ多いかをメルセデスのディストリビューターのウォルシュから説明させるシーン。車自体が重要な証拠として法廷で争われる珍しいミステリーだ。
マーゴリンの2作目も、きっちりと、周到などんでん返しが用意されていて思わずうならせられてしまう。(2004.1.5)

封印された悪夢55年型マーキュリーHEARTSTONE (C)1978田口俊樹訳 早川 1996

『リッチー・ウォルターズは、エレイン・マリーの家のまえの縁石の脇に、55年型マーキュリーを停め、車を降りる前にバックミラーで自分の顔を点検した。頬の左側のにきびにはクレアラシルがつけてあり、それでうまくごまかせていることを期待して見たのだが、肌色のクリームのお陰で少なくともめだってはいなかった。ふっと笑みが浮かぶ。われながらなかなかの男前だ。今日は身だしなみにはとくに念を入れてあった。なぜなら今夜は特別な夜になるはずだったから。 外は肌寒く、リッチーは高校の校章のはいったスタジアム・ジャンパーのポケットに両手を突っ込んだ。期待と不安の入り交じる、妙な気分だった。ステディになってほしいと、女の子に申し込むのはこれが初めてで、そのことが少し怖かった。』
-- COMMENT --
 マーゴリンの処女作品。その後の『黒い薔薇』『暗闇の囚人』が好評だったため復刊され、日本でも3番目に訳出刊行された。引用したところに登場してくる高校生カップルがデート中に惨殺されたのち、有力な情報もなく迷宮入りになりかかったが、担当した刑事が犯人を追いつめる。一方、地方検事の一人が別なルートから事件の謎に迫っていき、錯綜してくる。
処女作のせいか、ストーリーに粗さが目立つのが残念ではあるけど、page turnerの素質は充分だ。(2004.1.5)


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