McKinzie, Clinton /クリントン・マッキンジー
絶壁の死角 | ランド・クルーザー | The Edge of Justice (C)2002 | 熊谷千寿訳、新潮 2005 |
---|
-
『ララミーにはいってすぐ、やじ馬の車の波に乗って裁判所のまえをとおり過ぎるとき、馴染みのない表情が顔に浮かぶのを感じた−口の両端を上にあげた笑みだ。うれしいのではなかった。やれやれと首を振りながら、どうなってんだ? というときの作り笑いに近い。マスチフの血が混じる犬の分厚い胴体が、私の古くさいランド・クルーザーの後部助手席側のウィンドウから突き出ていたが、その犬もにやついているように見えた。
黄色い歯をむき出し、黒い唇からよだれの糸を垂らした犬の首が近づいてくると、歩道に集まっていた群衆が身をよけた。
裁判所から5ブロックも離れていたが、車を停めるスペースを見つけることができただけでも運がよかった。車を停めた後、犬がそばを通りかかった人をなめて、心臓発作を起こさせるとまずいので、首が出ないようにウィンドウをいくらか上げた。』
--COMMENT--
山岳冒険ものと期待させるタイトルに惹かれて読み出した。しかし、訳文の難解さというより、日本語になっていない酷い訳出ばかり気になりつつ、それでも…と我慢して数十ページまで読み進んだところで我慢も限界でギブアップ。本文2ページ目に車のシーンがあるので、参考までに引用だけさせてもらいましょう。
例えば、第一章の冒頭<…強い風が吹きつけていた。重力と同じくたゆみない風だが、悪意が含まれているようにも感じられた…>、果たしてどんなに重い風なのか、到底理解不能。引用部分でも<…馴染みのない表情が顔に浮かぶのを感じた…>って、自分の顔の表情を言い表しているとはとても思えない。
訳者さんもつわものだが、こんな粗悪翻訳書を手抜きのままぬけぬけと刊行する新潮社も、アネハ・ヒューザーか、東横インなみ。ついつい止まりませんがm(__)m、原著者に失礼だけじゃなくて、海外ミステリ・ファンをばかにしているようなもの。『このミス』あたりで、ワースト翻訳ランキングをしたら、まず本書がグランプリものでしょうね。
ついでだが、引用に出てくるのは車名だから、ランド・クルーザーと中黒を入れるのはおかしい。これまで同車が出てくるミステリーでは全て<ランドクルーザー>となっている。ことほど左様に、知識・勉強不足だ。(2006.2.8 #401)
作家著作リストM Lagoon top