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MEADE, GLENN /グレン・ミード

すべてが罠トヨタ、ニッサンほかWEB OF DECEIT, (C)2004戸田裕之訳 二見 2005

『アントンが声をかけた。「どうしたんだ、速すぎる。ブレーキだ、ジェニファー。ブレーキを踏むんだ」
「踏んでるわよ、でも、反応がないの」
ジェニファーはもう一度、それこそ渾身の力でペダルを踏んだ。だが、やはり反応はなかった。ギアを落として減速したと思ったのもつかの間、すぐにまた、ジェットコースターのように加速しつづけた。車をコントロールするのが困難になりはじめ、横滑りして道路の向こうへ飛び出さないよう死に物狂いでハンドルを操らなければならなくなった。
「ハンドブレーキをひいて!」ジェニファーは叫んだ。
アントンが手を伸ばしてハンドブレーキをひいた。だが、効果はまったくなかった。ジェニファーはギアをファーストまで落とした。車はがくんとつんのめるようにして減速したが、いきなり前方に急カーブが出現した。その切り立った岩の断崖を曲がりきらなければ何百フィートも墜落しなくてはならなかった。
ジェニファーは右へ急ハンドルをきった。車はコントロールを失い、崖の縁へと横滑りしていった。
 崖までわずか数秒というときに、青いニッサンの四輪駆動車がどこからともなく現われた。ブラインドになっている上りのカーブをゆっくりと曲がってきたと思った瞬間、耳をつんざく大音響とともの二台が衝突し、ジェニファーたちのトヨタの四輪駆動車は崖の縁まで2メートルのところで、タイヤを鳴らしながら横滑りをやめた。』
--COMMENT--
 これまでに『雪の狼』しか読んでいないグレン・ミードだが、冒険色ゆたかなスケールの大きいサスペンスに仕上げらていてなかなか面白かった。上下あわせて700ページにもなる長編も、しつこいほどのアクションシーンの連続で飽きさせずに読ませる。
 邦題『すべてが罠』は、まぁ内容をよく要約というか、要約しすぎで、読むほうは、主人公の周りに登場してくる良さげな人物が、こいつもワルモノだろうなぁと予知できてしまう。要約ぴったりのタイトル付けも考え物だ。
 引用は、父親がスイス・アルプスのクレパスに転落して発見された現場を見にいった帰り、主人公ジェニファーの乗ったトヨタのブレーキが効かなくなって(…よくあるプロットだけど)ひやっ!!となるシーン。車が登場するシーンはやたらと多岐にわたり数も多い。

連邦弁護人局の弁護士ジェニファーの"5年前のブルーのフォード"、クレパスへの転落者を発見したクライマーの"ルノーのレンタカー"、イタリア地元警察の"青と白のツートンカラーのフィアット・パトカー"、CIAチームの"ビュイックとポンティアック"、クライマーを追跡する記者の"アウディ"、ジェニファーを隠密裏に保護するニューヨーク市警刑事が使うレンタカー"オペル・オメガ"、刑事を支援してくれる仲間の"15年前の銀色のポルシェ944"、憲兵隊本部を爆破する"白いフィアット・バン"、憲兵隊大尉の"白のランチア"、ジェニファーがイタリア・ブリークで借りる"ダークグリーンのフォルクスワーゲン・ゴルフ"、ケネディ空港で用意されていた"ブルーのシヴォレー・インパラ"……その数の多さでは多分、ベスト3にはランクさそうだ。(2006.1.27 #398)

亡国のゲームヤマハ、ホンダResurrection Day, (C)2002戸田裕之訳 二見 2003

『ランドはある廃倉庫の裏の駐車場にエクスプローラーを乗り入れた。その倉庫はウェントワースのアパートから車で5分、かってはいいときもあっただろうが今は見捨てられた地区の、古い造船所の近くにあった。ラシドが運転席をでて倉庫の両開きの鉄扉を開けていると、ニコライ・ゴレフが助手席を降りてやってきた。
「こっちだ」と、ラシドはゴレフをなかへ入れ、しっかりと扉を閉めてから、照明のスイッチをいれた。眩いネオンの明りが倉庫に満ち、中央に停めてある白いライダー・ヴァンを浮かび上がらせた。
「ここがもう一つの逃げ込み場所だ。荷物をもと首都に近い所に隠さなくてはならなくなった場合に、ここを使うかもしれん。だが、それは状況しだいだ」ラシドがそう説明して、ライダーの後部ドアを開けた。日本製の協力な1000ccのオートバイが二台−一台は黒のヤマハ、もう一台はダーク・ブルーのホンダ−、3個の黒いヴァイザーつきヘルメットと3着の黒革のライダー・スーツと一緒に、並べて置いてあった。
「どうしてオートバイなんか?」とい、ゴレフが訊いた。
「われわれがワシントンを脱出するとき、あるいは、緊急に逃れなくてはならなくなった場合に必要になるかもしれんだろう。オートバイには乗ったことがあるな?」 ゴレフがうなずいた。「何度も乗っている。どうやら、何から何まで抜かりはないようだな」』
--COMMENT--
 奇しくも2001.9.11の直前に第一稿が仕上がっていたというアル・カーイダによるワシントンへのテロ攻撃を題材にした上下巻でなんと1100ページもの大作。テロ首謀者の命令に3日間のうちにしたがわなければ全ワシントンを一瞬にして壊滅させる神経ガスを撒くという脅迫について、市民の脱出シナリオ、罹災した場合のシナリオなどがさまざまな角度で議論される場面が山場。特に地下鉄サリン事件の経験をもつ日本にとって他人事ではないし、テロ脅威が高まっているとされる昨今だけに恐ろしさが現実味を帯びる。
 引用は、ワシントンに潜入する実行犯三人が隠れ家にくるシーン。ヤマハやホンダ・ゴールドウィングで逃走したらよけい目立ってしまうようにも思うけどね?! 車はもうやったらめったら多数でてくるので、ざっとリスト…
 実行犯グループの移動用の"青い四輪駆動のエクスプローラーとホンダ・シヴィック"、爆発散布させる神経ガスを積み込むニッサン・ヴァン、そうそうアフガニスタンのアル・カーイダ基地でもニッサン・ジープが出てきて…テロ側はニッサンがお好き? ワシントン・ポストの女性リポーターの"ダークグリーンのトヨタ・カムリ"、ロシア大統領の"メルセデスS600"、ロシア保安局の"ラーダ・セダン"、ロシアの通産大臣の"ヴォルヴォ・エステート"、ワシントン市長の"クライスラー・ル・バロン・リムジン"、陸軍のハンビー兵員輸送車、チェチェン人のギャングの"スモークガラスの黒いGMサヴァンナ"(GMCが正しいと思う)、FBIのシヴォレー・インパラ、ダッジ・ヴァン、チェロキー、ダッジ・イントレピッド、フォード・セーブル等々…
 p.s.いつものあら探しで恐縮だが、カバーに記載されている原題"RESURRCTION DAY"は、正しくは"RESURRECTION DAY"だね。(2006.2.17 #402)

熱砂の絆パッカードThe Sands of Sakkara (C)1999戸田裕之訳 二見 2000

『ナズラト・アス−サマンは埃の舞う大通りの両側に泥練瓦の家と粗末な店が肩を寄せ合っているだけの小村にすぎなかった。数百ヤード向うにピラミッドがそびえ、この村が存在しているのも、ひとえに訪れる観光客が安物の装身具や粗悪な革細工を土産として買ってくれるからだった。
 ハーヴィ・ディーコンの車が埃にまみれて止まるやいなや、六人ほどのぼろを着た裸足の子ども達が黒のパッカードに群がった。ディーコンは一番強そうな子どもを手招きし、十ピアストルを渡して言った。
「戻ってきたときに、もう十ピアストルやろう。ただし、だれかにこの車を触らせたら、耳を殺ぎ落とすからな」
 ディーコンはその少年の頬をぴたぴたと叩くと、両側に二本のイチジクの木の植わっている板石敷きの中庭へと入っていった。そこを抜けると村の外れだった。彼は未舗装の道をピラミッド群のほうへ歩いていった。その古代遺跡は高台にあり、ナイル渓谷を一望することができた。彼は傾斜を上りはじめた。途中、砂漠の端近くで、山羊の一群がまばらな草を食んでいた。彼はスフィンクスの正面にまだ土嚢が積み上げてあることに気がついた。古代の死の神の人面を覆うその土嚢の壁は、ドイツの空爆から歴史的な記念物を守るためにイギリスが造った爆風よけだった。』
--COMMENT--
 1943年の末に催されることになった連合国側のアメリカ大統領とイギリス首相とのカイロ秘密会談をナチス側が察知し暗殺を企て(史実)、ドイツ側先遣チームと米英軍情報部が戦う。英空軍ブリストルがアレキサンドリアの内陸砂漠地帯でその先遣隊を運ぶダコタ偽装機を追撃するシーンと墜落機からの逃避行は、まるでウィルバー・スミスの冒険小説を想わせ、私の大好きな舞台だ。
 追う側と追われる男女が昔一緒に、エジプトの発掘調査をしたという因縁?ロマン?がからめてあるところが、ミードのお得意大技だが、訳書上下900ページはチト冗長だったし、最後のどんでん返しはとってつけたようなサスペンスだ。
 引用部分は、カイロの実業家(ナチのシンパ)の米車、他には軍用車とか、あいまい宿マダムのシトロエンなどが出てくる。(2006.3.3 #403)

ブランデンブルグの誓約ビュイックBrandenburg (C)1994戸田裕之訳 二見 1999

『−アスンション、パラグアイ−
地所の周囲は高い塀に囲まれていたが、丘を上がる車の中からは、陽を受けて輝く広々とした芝生を見ることができた。ただし、塀の向こうの長い車道にはコショウとヤシの並木が連なり、その先の家を視界に捉えることはできなかった。
 雲ひとつない、蒸し暑い日だった。彼は車を運転しながら汗をかいていたが、それは暑いこともさりながら、腹の奥のほうに固まっているように感じられる、不安混じりの興奮のせいでもあった。
 いま、彼は鍛鉄の正面ゲートが開いているのを見て、錆の浮いている古い赤のビュイックを通り抜けさせようとした。そのとき、塀の死角の影から、拳銃をおさめたホルスターのとめてある革ベルトに両手をつっこんだ一人の若い警官が姿を現した。』
--COMMENT--
 ナチズムを背景とした巨大な陰謀ものを得意とするミードの処女作品。引用は、老富豪の自殺に不審をいだいた若いジャーナリストが、その家を訪ねるシーン。
他作品と同じく、上下巻900ページもの長編でなかなか読みきるのが大変だね。ほか登場する車は多すぎて省略…とあいなりました。(2006.6.3 #416)

地獄の使徒ブロンコThe Devill's Disciple (C)2006戸田裕之訳 二見 2007

『−ヴァージニア州、グリーンズヴィル−
これほど寒い夜はあるはずもなく、これほど白い冬もあるはずがなく、これほど冷ややかな死もあるはずがなかった。
 降りしきる雪のなか、わたしはグリーンズヴィル刑務所の前の混雑している駐車場に車を止めた。外に出て息をしたとたん、凍てつく一月の夜気が針のように鋭く胸を刺した。わたしは8年前のブロンコをロックし、刑務所の入口へ向かった。
 小止みなく舞い落ちる雪の下にテレビのニュース・クルーが群れ、彼らの車両の衛星ディッシュ・アンテナにも雪がこびりついて凍っていた。』
--COMMENT--
 6作目は、FBIワシントンDC支局の特別捜査官ケイト・モランが死刑になってもまた同じ手口の連続殺人をおこす犯人を追う。ケイトの婚約者とその娘もターゲットになって殺されていたり全体に無理の多くやっつけ風なストーリーで私にはいまいち。
 上記引用は、本書冒頭の書き出し部分。ブロンコに乗るタフな女性捜査官という印象付け。ほかには、捜査対象の赤ワイン色のトヨタ・カムリとネイヴィ・ブルーのトーラス、被疑者のトレーラーハウス"白と青に塗り分けられたサンクルーザー"など。(2007.8.12 #498)


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