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Leslie Meier /レスリー・メイヤー

メールオーダーはできませんジープ・チェロキーMistletoe Murder (C)1991高田恵子訳 創元 2007

『頬がバラ色に染まり、ロウソクの灯りで目がきらきら輝いている友人たちの顔を見回しながら、ルーシーは、この女性たちの大半は、自分が大人としての人生を踏み出したころからの知り合いだということに気づいた。何人かはティンカーズコーヴの生まれだったが、ほとんどは、転入者か、ルーシーとビルのように、激しい生き残り競争を避けて、"奥地"に別のライフスタイルを求めてやってきた、理想主義的な若い大学出の"漂着者"だった。彼らは雑誌の『マザー・アース・ニュース』を道しるべに、木を伐り、菜園を作り、あらゆるものをリサイクルした。
 ルーシーはこの女性たちと一緒に、ラマーズ法や、子育て支援のラ・レーチェ・リーグの講座に参加してきた。そのころはみんな、ピアスには手作りの銀のイヤリングをぶらさげ、オーバーオールを着てリンゴのように真っ赤な頬の子どもたちをつめこんだ、おんぼろのピックアップ・トラックや巨大なシヴォレーのインパラを運転していた。話題の中心は、いかに夜中に目を覚まさないように赤ん坊を眠らせるか、いかにコールラビに青虫がつかないようにするか、だった。
 今、彼女たちの運転する車はジープ・チェロキーやダッジのキャラヴァンにかわり、耳からぶら下がるイヤリングは、丸い小さなゴールドや養殖真珠のピアスにかわった。』
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 メイン州の田舎町ティンカーズコーヴ(もちろん架空の)を舞台にして、スポーツ・アウトドア用品通販会社のコールセンターのパートをやっている主婦ルーシーが、身近におきた殺人事件の犯人に迫る…はやりのコージー・ミステリというかコミュニティー・ミステリとなっていて、引用のような、アメリカのごく普通のライフスタイルがうまく描かれていて楽しい。なお、米国では2006年までにシリーズ13冊となっていて、本書が本邦初翻訳。
 謀殺された通販会社社長の"<わたしがサムだ>というナンバープレートをつけた濃紺のBMW"、ルーシーの(引用文のテーストにぴったりの)スバル・ワゴンなどが登場する。引用文の"Mother Earth News"のサブタイトルが"The original Guide to Living Wisely"となっていて、『暮らしの手帳』の郊外生活版のような雑誌らしい。若かりし頃憧れた<輝く米国風ライフスタイル誌"Town & Country">がカントリー風都会生活誌…私の勝手な分類ですが…と味わいが異なる感じだ。(2008.1.15 #529)

ハロウィーンに完璧なカボチャクライスラー・インペリアルTrick or Treat Murder (C)1996高田恵子訳 創元 2008

『庭を横切って、ばかでかい1974年型クライスラー・インペリアルに乗り込むミス・ティリーを、ルーシーは勝手口のドアのところから見守った。長さは3m近くはあるだろう。まったく大した車だ。何トンもの鋼板を使った、恐竜のような車だ。ギアを入れると車体がかたむいたのを見て、ルーシーは思わず顔をしかめた。
 ミス・ティリーがさんざん苦労して三点ターンした。大きいほど乗り心地がいいという理論のもと、設計者は操作性をほとんど考慮していなかった。あんな車に乗ったら、障害物を避けるのではなく、轢いて走ることになる。
 やっとのことで車をUターンさせたミス・ティリーは、ルーシーに軽く手を振ると、アクセルペダルを床まで踏み込んだ。ルーシーは猛スピードで私道を走っていく車を見送りながら、ミス・ティリーはハンドルの上から前が見えているのだろうかと心配になった。郵便受けを突き倒したことにも気づかないようだった。』
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 主婦探偵ルーシー・ストーンの3作目。2作目『トウシューズはピンクだけ』を飛ばしているので、いつの間にか一月半の赤ちゃんまでいて、どちらかと言うと<子育てママ探偵>の方がぴったりか。田舎町ティンカーズコーヴにある古い館が次々に放火される事件がおき、嗅ぎまわる彼女も危険な目に。
 引用は、元図書館司書で町の歴史地区保存委員会委員長のインペリアル、高齢となって何度も危ない運転をして最後には大事故をおこしてしまう顛末が一貫して語られる。ルーシーの小型スバルは一作目から変らず、放火で亡くなったルーシーの知人のBMW、エアロビクス・スタジオの女性経営者のポンティアック・フィエロ、ミス・ティリーに衝突され大怪我するベビーシッターの"赤い小さなトヨタ・ターセル"、ルーシーの夫が最初の車がダッジ・ダート、不動産屋の"古ぼけたサーブ"などが登場する。
蛇足:町をあげてボランティアたちが協力するハロウィーンのイベントについて、p140に<…ボーイスカウトやガールスカウトは全員が参加、高校のサッカー部と"胃を切除したアルファ・クラブ"のメンバーたちも集まっていた…>という訳文があり、"胃を切除したアルファ・クラブ"って一体何なのでしょうね。アメリカではそういうクラブがあるのが当たり前なのかしら? (2009.3.12 #585)

トウシューズはピンクだけビュイックTippy-Toe Murder (C)1994高田恵子訳 創元 2008

『町から離れた山の中にある古い農家を改造した自宅で、ルーシーはサイレンの音がだんだん近づいてくるのを耳にした。ポーチに出てみると、警察車両の列が、昔の木材搬出用のでこぼこ道を走っていくのが見えた。
「ね、ママ、なにがあったんだろう?」10歳の息子トビーがたずねた。
「わからないけど、見に行きましょう」ルーシーは父と消防車を追いかけたことを思い出した。まだ小さいころで、父のビュイックのシートはとても広く、車がカーブを曲がるたびに、右へ左へと体が滑った。まだシートベルトなど普及していない時代だった。
「そんなに早く走らないで」彼女は大声で言った。「待ってちょうだい!」6ヶ月のお腹を抱えたルーシーは、トビーについていくのはとてい無理だと悟った。
ブルーベリーの空き地に着くと立ち止まって、母親を待った。母と子はならんで事態を見守った。
警官と一人と大型のジャーマンシェパード一頭が組んだK-9が森の端を調べており、数人の警官が池をさらいために小型のボートを浮かべているところだった。』
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 子育て中のママ探偵ルーシー・ストーンの2作目は、子ども達のバレエの発表会を控えるなか、元バレーの先生が失踪したり、金物店の主人が殺されて発見される事件が立て続いておきる。コージー・ミステリとはいえ、田舎町ティンカーズコーヴの人々の生活ぶりがいきいきと描かれて、ストーリーもしっかりしていて楽しめる。 この子どもバレー発表会の注意書きの見出しに従ってストーリーの章立てが進むところがしゃれている。
 引用にあるように、ルーシーは4番目の赤ちゃんをお腹に宿している最中のお話し。"K-9"は、1989年制作の米国アクションコメディ映画タイトルにもなった警察犬部署を指す。ルーシーのスバルは変わらず登場、元バレー教師の"青い小型のホンダ"、金物店の女性店員の"ブルーの小型ダッジ"、不動産会社のフレッドのワゴニア、その妻のシヴォレー・サバーバン、悪徳弁護士の黒いサーブ…など。(2009.4.8 #588)

バレンタインは雪あそびスバルValentine Murder (C)1999高田恵子訳 創元 2009

『ルーシーとゾーイがようやく古いスバルのステーションワゴンで出発したのは、十時四十五分だった。雪に覆われた道路を、ゆっくりではあっても着実に進みながら、四輪駆動でよかったとルーシーは思った。ティンカーズコーヴでは町の公共事業課が道路の除雪をしていたが、高価なアスファルトを傷つけないようブレードを高くセットしているので、路面には三、四センチの雪が残っている。
 雪が嫌いならメイン州に住むべきではない、というのがルーシーの持論だ。少なくとも記録的な寒さと異常な豪雪のこの冬は。さいわい、彼女は寒い気候が好きで、雪がちらちら舞い始めるとといつも胸が躍った。昨夜の吹雪で、あたりの冬枯れの木々ばかりの世界がきらきら輝くおとぎの国になっているのを見て、ルーシーはうっとりとした。』
--COMMENT--
 子育てママ・ルーシー・シリーズの5作目は、いつの間にか地元新聞の特集担当まで引きうけて大忙しのなか、図書館司書の女性の射殺体を発見してしまう。賭博くじにのめりこんでしまう人たち、公共施設の建設契約における不正事件、定着しつつあるゲイ・パートナーなど地域の話題を取り込みながら素人探偵が活躍する。このシリーズでよく登場する食品スーパーのIGA(The Independent Grocers Alliance)って、元々は個人食品店の組合みたいなものようだ。About IGAをみると日本にもあるみたい? 図書館に寄贈された貴重な<ピューターのタンカード>も初耳。牛革で作ったカード状飾り?かしらなんて思ったら大違いで、タンカード=ビールのジョッキ、ピューター="しろめ"??すずの合金のこと。あまり何度もでてくるので調べなくっちゃね、と思っている内に読了してしまい想像とはおお外れだったことが判明(-_-;)
 冬のティンカーズコーヴで活躍するルーシー愛用のスバルは出火全損になってしまう。ほかに、スクラッチくじをこすっていた男のシヴォレー、彼女の友人の"真新しい巨大なSUV"、元学長の"黒いリンカーンのタウンカー"をはじめ車の登場シーンがたくさん。(2011.8.14 #701)


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