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MORSE, L.A./L.A モース

オールド・ディックシヴォレーTHE OLD DICK, (c)1981早川,1983

『コートを着込み、サルとわたしは裏口からガレージに向かった。外に出ると、空気はイスタンブールの浴場のタオルのように湿気を帯び、重たく、砂だらけだった。
 例の探偵アル・トラッカーならこう形容するに違いない。通りの先の方の家では、誰かがプールで深夜のパーティーを開いていた。
 わたしの車は20年前のシヴォレーである。もっと外見が良かったら、ちょっとしたクラシック・カーと言えただろう。しかし、現状の状態ではただのぼろ車だ。ガソリン代と諸般の事情からできるだけ乗らないようにしているが、車があることは悪いことではなかった。いったん走り出せばほとんど問題はないが、エンジンは年々かかりにくくなってきていた。
 「途中で故障したりしやしないだろうな?」そういって、ダッシュボードの裂けた模造革にさわった。
「大丈夫さ」
 驚いたことに、エンジンは一発でかかった。
私は、エンジンを確実に始動させてくれたまだ見ぬ神に心の中で感謝を捧げた。』
--COMMENT--
 古いシヴォレーが登場しますが、この車をもつ主人公はなんと78才の老いぼれ探偵であり、いってみればピッタリの設定なのです。 事件の方は誘拐、身代金受渡し、ヤクの取引など本格的なハードボイルド仕立てとなっていますが、老探偵ジェイク・スパナーを中心としたユーモアと機知に富んだ筋はこび、会話がなんとも楽しく設定されています。なかでも、隣の未亡人のミセス・バーンスタインが彼女の得意なロール・キャベツの夕食にジェイクを誘うシーンは最高です。彼女の亡くなった夫もジェイクも、ロール・キャベツが大嫌いにもかかわらずそれを言い出す機会を失い、食事に誘われるといかに逃げるか必死になる。
1982年アメリカ探偵作家クラブ最優秀ペイパーバック賞授賞作品(noted 91/10)

トリプルXおんぼろチェッカーSLEAZE (C)1985石田善彦訳 早川,1986

『車のところまで戻ると、<STUD(種馬 絶倫男)・1>という特別注文のナンバー・プレートをつけたぴかぴかのメルセデスが車の後ろに違法駐車し、出られなくなっていた。たぶん、持ち主はこんな立派な車を持っていることで銀河系の主にでもなったつもりになり、いつでもこんな真似をしているのだろう。ふん、今日はそうはいかないぜ。たまたま、おまえは別の宇宙に入り込んでしまったんだ。
 おれのおんぼろチェッカーには、いいところが二つある。その一つは、どんなにキズをつけようが気にならないことだし、二つ目は、この車以上に重く頑丈なのは装甲兵員輸送車くらいしかないということだ。
 運転席に乗り込み、車をぎりぎりまで前に寄せた。それからニュートラルに戻しアクセルを一杯に踏み込んでおいて、バックギアにいれた。ガラスが割れ、金属の折れ曲がる快い音が響きわたり、メルセデスは一フィートほど後退した。もう一度同じことをくりかえすと、こんどは衝突ももっと激しくなり、メルセデスもさらに後退した。もう一度繰り返したところで、やっと車を出せるだけのスペースができ<STUD・1>はレンガの壁に衝突したあとのような状態になっていた。』
--COMMENT--
 問答無用・タフガイ・超モテモテの探偵サム・ハンターの2作目。昔はこの手のハードボイルドが多かったし、単純明快なストーリー展開が読みやすい。ポルノ雑誌の女編集長に届く脅迫文の調査を依頼されたら次々と訳のわからない殺人事件が…
 ハンターの元チェッカー・キャブは、仕事の謝礼としてタクシー会社社長から貰った25万マイルも走った車だが、エンジンは快調だし壊れないので主人公が愛用している。(2007.8.3 #495)


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