lagoon symbol
OATES, JOYCE CAROL /ジョイス・キャロル・オーツ

ブラックウォータートヨタBLACK WATER, (c)1992講談社,1992

『レンタカーのトヨタは、もどかしくてならないというような、上院議員のせっかちな運転で、カーブを曲がるたびに目がくらくらするほど車体を振りながら、名もない未舗装路の道を走っていたが、突然、なんの前触れもなく道を飛び出し、助手席から黒い急流の中へつっこんで、あっという間に沈んで言った.
<このまま死んでいくのだろうかーこのまま?>
メイン州ブースベイ・ハーバーからフェリーで20分の、北西の海上に浮かぶグレイリング・アイランド.二人はその湿地帯にいた.古い友達のように、古い友達のなかでも特に気のおけない友達のように、親しげに言葉を交わし、ささいなことですぐに笑いだした.そして、上院議員が運転しながら片手で持っているプラスチックのカップからウォッカ・トニックの残りがこぼれないように、ケリーがそっとその手をおさえようとしたとき、突然、たとえば映画の画面がしゃっくりみたいに発作を起こしてコマから飛び出すように、ケリーには理解できないほどあまりにも突然に、疾走する車の下から道が飛び出し、フロントガラスに水が押し寄せ、飛沫が跳ね上がった.二人は黒い水の中に沈んでいきながら、出口を求めてもがいていた.夢の景色ののようにぼんやりしていたあたり一面の湿地帯が、今や命をを持つもののように彼らを飲み込もうと迫ってきた.』
--COMMENT--
 この本を手に取ってのぞいてみたら、冒頭からトヨタが出てくるので初めての作家のものではあるが、とりあえず読んでみたら、何というか不思議な構成なので驚きました.いわゆるコンテンポラリーノベルであり、ミステリーファンにはお勧めはしにくい・・・
 というのは上院議員と同乗した女性ケリーが道から転落して車中で死ぬまでの一瞬の間に思い浮かぶシーンの回想が繰り返して出てくるだけ.繰り返すたびに多分20回ほどは“トヨタ”が出てくるので、特定車種名が高頻度で表れる記録的な小説といえましょうか?
何故、トヨタなのかは全く想像もしにくい点でも珍しい. (93/02)


作家著作リストO Lagoon top copyright inserted by FC2 system