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O'CONNELL, JACK /ジャック・オコネル

私書箱9号バラクーダBOX NINE, (c)早川書房,1992

『「すてきな車だ」ウーはレノアの修復バラクーダに目を見張る。
「ええ」レノアはなぜそう言われたのかを不愉快に思う。
「ポルシェを買うのに貯めているとこ」
「高い車だ」
「高いっていうのは相対的な言い方よ」
 バラクーダに関して、一度ミスケウィッツが口を挟んだことがある。十回も塗り重ねた黒いペイントがワックスで常に光り輝いているから、バンコック・パークに駐車して置くには少しめだちすぎるのではないかと言うのだ。レノアは一歩も譲らなかった。あんたなんかオフィスでぶらぶらしているだけで、パークのことはこれぽっちも知らないくせに、とまで歯に衣を着せずに言いはしなかったが、コカインのディーラーが出入りする場所には派手な車がいくらでも止まっているし、こんな屈辱的な給料で場所に見合った車を持つとすれば、このバラクーダがせいぜいだ、と主張してやったのだ。緊張の一瞬だった。越えてはいけない一線がある、とミスケウィッツは察した。望むものを手に入れる事と、経験をつんだ最前線の人間を大切にすることとの微妙なバランスを崩してはおしまいだ。レノアの主張は通り、それ以来バラクーダに関しては一言も聞かれなくなった。
 ウーはドアポケットからカセットを取り出し、タイトルを読み上げる。「ディスカウント・ロボトミー、ゲッペルス・アンド・ザ・ウーファーズ」
 レノアは断固として照れはしない。「切れ味満点よ。未来の音楽ね。平均的な人間じゃ持て余すわ」』
--COMMENT--
 ニューイングランド中部の市警察麻薬取締の女刑事レノアが、新しい合成ドラッグを追跡する任務で研究所の学者ウーを連れて彼女の車で出発するシーン。
 上記の、車にたいする思い入れや、最後にでてくるなヘヴィー・メタル・ミュージック好きなとても・・かなり・・個性的な女性主人公のキャラクターがなんとも魅力的な作品。新人作家だからなのか、まったく新鮮なミステリーの仕立てになっているところが楽しめる。(94/10)


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