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PARKER, ROBERT B./ロバート・B・パーカー

誘拐ダッジ・バンなどGOD SAVE THE CHILD, (c)1974立風書房,1980

『ヒーリーはコートを着て、ネクタイをしめなおし、ストローベリーハットをきっちり頭に乗せた。外にでると雨がまた降り始めていたが、ヒーリーは気にもせずに、「きみの車で行こう。無線付きの車をとめてホシに見せびらかすこともなかろう。マイルズ、ここをたのむぞ。まもなく戻ってくる。」
 おれがパトカーをさけるために芝の上で車をバックさせると、ヒーリーが、 「この車の屋根は雨がもるなあ」
「ええ、新車に買い替えるだけの日当を州から出してもらいますかねえ」 おれが答えたが、ヒーリーは何も言わなかった。
・・・・
 バーレット家の車道にはライト・ブルーのパトカーがまだとまっていて、髪のもじゃもじゃのシルベリアという警官が、前の座席で、“スポーツ・イラストレーティッド”を読んでいた。
 おれがその横に駐車すると、彼は車から出るおれを雑誌越しにみて、 「そのくたびれた車はゴミ収集日には道ばたにおかないほうがいいぜ」
「そっちこそよく口がくたびれないな。雑誌を音読してたんだろう」
「そっちは耳がいかれちまうぞーバーレット夫人のお小言でな。おれにはわからないすげえ言葉で、あんたのことをクソミソにけなしていたぜ」』
--COMMENT--  中野サンプラザ図書館でみつけたパーカーの最も古い翻訳もので、14年前の立風書房1980年刊。なお、立風ミステリーとしてはパーカーの『失投』1975がさきに出て、本書以降は早川になったようである。
私立探偵スペンサーの車の車種はでてこないが、この頃は相当オンボロものだったようで、上記のようにストーリーの2箇所にあらわれる。
なお、その後のシリーズでパーカーの恋人になるスーザン・シバマンにはじめて出逢うシーンがある。(94/09)

初秋フォード・ブロンコEARLY AUTUMN , (c)1981早川書房,1988

『5月の初めで日差しが強く、暖かかった。レンギョウの花が咲き始めていた。
 私はスーザンのブロンコを使っていた。車から出てポールからスーツケースをとり、車の後部にいれた。スティーヴンがそばにいた。ピエール・カルダンのマークのついたジーンズをはいている。フライブーツ、紺地に紺の縦じまのカラーのない仕立てシャツのぼたんを中途まではずし、グレイのシャークスキンのヴェストの前を開いている。彼の濃い栗色のポンティアック・ファイアバードが家の車道においてある。
「あのファイアバードはだめだよ」私が言った。「その身なりと釣り合わないな」
「ほう、そうかね」スティーヴンが言った。「何がいいと思う?」「だな、あるいはポルシェか。その洗練された清潔な大陸スタイルに合わせた方がいいよ、わかるだろう」・・・・
 間もなくポールがブロンコに乗り込んだ。車の床が高いので苦労して入り込み、なんとか助手席に座った。私が運転席にに乗った。「バイ」パティが言った。
ポールが、「バイ」と言い、私たちは走り去った。角を回って、エマスン通りから出るとき、ポールの目に涙が溢れるのがチラッと見えた。私は道路を見つめていた。ポールは泣かなかった。』
--COMMENT--
 スペンサー・シリーズの第7作であるが、両親から見放された15才の少年をとことん面倒をみて自立させるというスペンサーのまさに“男として守らなければならないルール”を具現化するシナリオ立てになっており、事件中心の作品とは異なっている。
 フィアンセのスーザンのフォード・ブロンコと“ホワイトウォール・タイヤ、トランクの上にクロームのラゲッジラックのついたえび茶”のMGがスペンサーの足となるほか、スペンサーのともだちのシルバー・グレイのジャガーXJ12などが登場する。(91/10)

蒼ざめた王たちニッサン 240ZPale Kings and Princes, (c)1987早川書房,1988

『この真っ赤なスポーツカーは尾行専門家が選ぶようなクルマではないが、私はロジャスの息子に気ずかれようと気にはならなかった。・・・・・
 三号線をオーガスタへいってメイン高速道に乗り、南にむかった。私はいらいらしながらゆっくりとついて行った。
 雪の降り方がますます強くなったきて、スーザンの車は、乾いた高速道で音速を超えるには最適だが、滑る路面では普通の車より扱い難かった。
 エンジンのトルクが大きすぎて、速度をあげるたびに車輪が空転する傾向がある。幸い、ブレットは雪で神経質になっているらしく、時速六十マイル以下に抑えているので、私は滑りながらも側溝に落ちないでついて行った。』
--COMMENT--
 明るく健康的な新しい私立探偵像をつくりだした、ロバート・B・パーカーのスペンサーシリーズ第14作。
 上のセンテンスにでてくる「私」がスペンサーであり、食事、ファションにうるさいけど、自分の原則をどこまでも貫き通すひたむきなキャラクターが魅力である。
 スーザンとは、彼の恋人であり、今回は彼女のクルマを借りて、犯人グループの追跡をしている。
 ただ、残念ながら、ストリーのどこにもこの赤いクルマの車名が登場せず、早川書房版の表紙絵に240Zが描かれており、本文の描写からも240Zであろうことにまず間違いない。スーザンは、精神療法の先生であったはずであり、アメリカのキャリアウーマンが選ぶクルマとしても、ぴったりである。(90/09)

"TOMMY H"さんから【「蒼ざめた王たち」の、この真っ赤なスポーツカーは、ニッサン 240Zではなく、三菱スタリオンESI-Rである、という可能性はありますか?】という質問がありました。Date: 2004/03/26
 結論からいうと、なんともスタリオンの可能性が高そうなことがわかりました。 改めてWeb検索をすると、アメリカのパーカー作品に関する以下サイトに、同じ疑問に答えて、A 1987 Mitsubishi Starion ESI-R と断定している部分がありました。
http://www.mindspring.com/~boba4/PaleKing.html

その当時米国に輸入されていた日本のスポーツカーで、インタークーラーターボ、デジタルクライメイト(?)、ハンドルにオーディオコントロールが装備されていたのは同車だけだそうです。240Zは多分、ターボは装備していなかったはずなので、その説明は説得力があります。翻訳本のカバーイラストは日本で独自に制作されたものなので、あまり信用できませんね(-_-メ)

スターダストチェロキーSTARDUST, (c)1990早川書房,1991

『二人でプロダクション・オフィスを通り、私の車がおいてある表の駐車場に出た。
「あんたの車、どれ?」
  「あの素晴らしい黒のチェロキイだ。全天候監視用にもってこいの車だ」
  「とにかく、思っていたよりいい車だわ」
  「チャールズ・ホテルか?」私が言った。「ケンブリッジ。何処か知ってる?」
私は上唇をぴったり歯にくっつけてボガード調で言った。
「おれは何がどこにあるか、すべて知ってるんだ、スイートハート」
ジルがタバコを一本取り出して車のライターを押し込み、ポンと出るのを待っていた。出るとタバコにくっつけ、カー・ライターで付けたタバコの快いかおりが前の座席に広がった。ライターを元へ戻すと、背当てにあたまを寄せかけてタバコをくわえたまま目を閉じた。毛皮コートの大きな衿に埋まっている顔は蒼白で微動もしなかった。 手を放して煙草をくわえたまま大きく吸い込んで口の端からゆっくりと煙を出した。初秋の夕闇が辺りを覆い、ソルジャース・フィールドロードの車のヘッドライトが青白く冷やかに光っている。  私はアイドリングさせたまま彼女を見ていた。両手をコートのポケットに深々と押し込み、体をすっぽりコートにうめて、ヒーターがききはじめるまで寒さに体を震わせていた。薄明りの中でみると、ぽっと赤く光る煙草は別にして、12才くらいの感じだ。疲れた子供、思春期前で、かじられないで木についたままの林檎、へびにまだ誘惑されていない。「一杯飲みたい」彼女が言った。
 私は黙っていた。川の対岸で、人々が仕事から家にかえって来るにつれて明りがぽつぽつつき始めている。
 川の私たちの側で街頭の水銀ランプがよい闇の中で弱いオレンジ色の光を放っているが、完全に日が暮れると青白色に変わる。風が凍った川から粉雪の小さな塊を舞い上がらせて、西へ、川がウォータータウンの方へ曲がるあたりまで吹き流している。』
--COMMENT--
引用がだいぶ長くなってしまいましたが、お待たせパーカーの最新作。情景が目に浮かぶような、また詩的とも言える表現がまさにパーカーの魅力(91/05)

歩く影マスタング・コンヴァーティブルWALKING SHADOW, (c)1994早川書房,1994

『去年、私はある大会社の多額の保険詐欺を暴いて保険会社から十パーセントもらった。その大部分をコンコードの家にそそぎ込み、残りでマスタング・コンヴァーティブルを買った。髪を風に吹かれながら犯罪を解決するのは恰好がいいと思ったからだ。車は赤で屋根は白、スーザンと一緒の時は彼女の髪が乱れるのでトップをかけなければならない。それにパールが一緒の時はネコを見る度に飛び出しかねないのでトップをかける必要がある。しかもポート・シティへ行くときはいつも雨が降っているのでトップをかける。ワイパーは好調だが、いずれにしても犯罪を恰好よく解決しているとは言えない。
 ヒル通りで高速道路から下りてくねくねと海岸に向かい、ポート・シティの社会的階層を下っていった。ホークが助手席に座っていて、ヴィニィ・モリスは後ろにいた。
「今日の計画はあるのか、キャプテン?」ホークが言った。
「ほかの手段がすべて失敗したら、調査する」
「手がかりとかなんとか、という意味か?」ヴィニィが言った。
「そうだ。サンプスンのアパートメントを調べ、人々に彼の写真を見せるために、バア、商店、映画館、レストランへ行って、彼を見かけたことがあるか、見た場合誰と一緒だったか聞く」』
--COMMENT--
ボストン近郊の港町ポート・シティの小劇団員と中国人ギャンクがからんだ事件を追うおなじみスペンサー、ホーク、ヴィニィ。最近の作品はひと頃の社会問題指向にくらべると重くないテーマが選ばれており、すこし物足りなさが残る。
 スペンサーの車がいつのまにかマスタングになっていたが、彼のキャラクターにはぴったりの車種ではある。(95/03)

虚空メルセデスTHIN AIR, (c)1995早川書房,1995

『チョコと私は銀色のメルセデス・セダンの後ろの座席に座ってプロクターを通っていた。フレディイ・サンティアゴが助手席に座り、例の縁無し眼鏡の半白の男が運転していた。誰かがフレディのフロント・ガラスを掃射しようとする場合に備えて、すぐ後ろに黒のリンカンがついており、武装した男が5人乗っていた。
 今も春の寒い日で今にも雨が降りそうだがまだ降っていない。正午近くで、街角に失業者のグループが立っている。何人かは眠っている。ただ突っ立っているだけの者もいて、フッドの付いたスエットシャツはすりきれており、球団名の入ったジャケットは薄すぎて、春の暖かみも絶望による寒気を和らげるには充分でないかのように無益に背を丸めている。
ある街角ではゴミ容器の中で火を燃やしていて、8人か10人くらいの男たちや少年が囲んでいた。大きな紙袋に入った何かの1リットル瓶を誰にともなく渡して回しのみをしている。』
--COMMENT--
 ますます円熟味をくわえるスペンサー・シリーズ第22弾。スペンサーの昔からの友人のボストン市警察刑事の若い妻が失踪し、わずかな手がかりから、ヒスパニックのギャングの根城に捕らわれていることを知り、ギャングの縄張り抗争に乗じて救出をはかる。上にでてくるサンティアゴが対抗するギャングのボスであり、彼のメルセデスに乗ってヒスパニックのスラムにある敵のアジトの様子を探りにいくシーン。車の名前がでてくるのはここだけであり、これまでの作品に比べると少なくなっている。
 親子、夫婦の人間関係の葛藤を軸に、いつもの映画シーンをほうふつとさせる服飾、食事、飲物、家具、街の点描などディテールをいきいきと描きだしているタッチがなんとも魅力です。 96年"読み初め"の作品がなかなか面白いものであったので、今年は楽しみだな。(96/01)

悪党フォード・イクスプロアーSMALL VICES, (c)1997菊池光訳、早川書房,1997
『クワークとベルソンは、オーバーヘッド・ドアの近くで、黒のフォード・イクスプロアーのフロント・フェンダーに寄りかかっていた。名犬パールは後ろの席ににいて、窓から外を見ていた。それ以外、車庫はからだった。私達は車のそばに行った。ベルソンがフロント・ドアを開けた。
「立てるよ」私が言った、「少し歩くこともできる。乗るのにちょっと手を貸してもらえればいい」(中略)
スーザンが回っていって運転席に乗り込んだ。ホークがパールのいる後ろの席に乗った。スーザンがエンジンをかけた。クワークとベルソンが行って出口の両側に立ち、闇の中に目を配っていた。クワークが手を振って合図すると、スーザンが車を車庫から出した。
「どこへ行くんだ」私が言った。
「サンタ・バーバラ」スーザンが言った。
「カリフォルニア?」
「そう」
「車で」
「そう。そのほうが安全なの」
「道中、カリフォルニア・ヒア・アイ・カムを歌っていいか?」』

--COMMENT--
 スペンサー・シリーズ第24作。ワルだが殺人は犯していない黒人少年を最後まで救おうとするスペンサー。適度に社会性をもたせながら、スーザンがほしがる子供の話をからませて、いつものパーカー・テイストに仕上がっている。今回はスペンサーが珍しく瀕死の重傷を負って、病院から秘密裏に退院するがの上記のシーン。なんとボストンからカリフォルニアまで逃避行する。『カサブランカ』の名せりふ「君の瞳に乾杯!」Here's looking at you, kid.が二度もでてくるなど相変わらずキザ。最近、東京でもはやりのスターバックスのコーヒーなどもしっかり引用されている。(98/04)

暗夜を渉るエクスプローラーNight Passage (c)1997菊池光訳、早川書房,1998
『彼はエクスプローラーを運転していた。赤いミアタは、最初の大きな仕事の収入で払う、とジェニファーが言ったバルーン式返済の約束手形をつけて彼女に残してきた。
 今、旅行の二日目なのに、いまだにフラッグスタッフの東の山中にいる。緑豊かで、清潔、ひんやりしていてそこいらじゅうに常緑樹がある。子供の頃いたアリゾナ南部とはまるで違う。小渓谷を水が跳ねるように流れ降りて岩の裂け目から吹き出ている。水はジェッシィがこれまでに見たことがないような奔放さで流れていて、まるで神様が、多すぎる水を持て余して、地表のこの辺りにあっさり放り出したかのようだ。
 クルーズ・コントロールにした車は、人気のない豊かな緑の風景の中を勝手に流れるように走っている。ラジオのスィッチを入れてスキャン・ボタンを押した。デジタル・ダイアルが音もなく点滅して、そこで停まるに足るだけの強い発信をしている局を探したが、なかった。自分が無人地帯にいるのを知る一つの方法だ。』

--COMMENT--
 パーカーの新シリーズがでたので、早速入手しました。ロス市警の刑事の職を失い、妻とも別れたジェッシィが東海岸の町の警察署長に採用されて、一人エクスプローラーで大陸横断するシーンが上記。ボストンの私立探偵スペンサーとちょっとは立場が違うだけで、やはり濃厚なパーカー節のキャラクターでしたね("新"シリーズというほどのことはありませんでした)。今秋には Trouble in Paradise という次作が刊行されるそうなので待ってみよう。(1998/06)

突然の災禍Sudden Mischief (c)1998菊池光訳、早川書房,1998

『スーザンと私はエセックスに行き、ファーナムという店でハマグリのフライを買った。持ち帰りのハマグリとオニオン・リングを、イプスイッチ湾のほうへ広がる浅瀬を眺めながら車の中で食べた。相変わらず雨が降っている。それに寒いので、エンジンをかけ、ヒータをローにしていた。私はクーラーにブルー・ムーン・ベルジアン・ホワイト・エールを入れ、タルタル・ソースを一瓶持ってきていた。ファーナムでビールを売っているし、小さなカップに入ったタルタル・ソースをくれる。しかし、ブルー・ムーン・ベルジアン・ホワイト・エールはちょっとエキゾチックすぎてファーナムにはないし、いつも、小さなカップがたくさんないと、ハマグリとタルタル・ソースの適当な比率を維持することができない。いつでも食べられるようにタルタル・ソースとベルジアン・ホワイトを並べるのをスーザンが見ていた。
「あなたは用意周到ね」彼女が言った。
「食料を適切に準備するのは食通のしるしだ」
しばらく二人で黙って食べた。夕方がしだいに暗くなり、ワイパーを止めているので、景色はあまり見えなかったし、見えるものはかすんでいる。しかし、ハマグリ小屋の明かりがフロント・ガラスを流れ落ちる雨の中にクリスタル模様を作り出しているし、ひっきりなしに屋根を打つ雨の音で暗い車内が絶好の避難場所のようにみえる。』
--COMMENT--
 スペンサー・シリーズ25作。恋人スーザン・シルヴァマンから前夫の窮地を助けてほしいと頼まれる。ますます、スペンサーとスーザンとの関係を掘り下げる内面化がすすんできているように思える。それにしても、スペンサーの立ち居振る舞いと会話がキザっぽくなりすぎているのが気になりますね。上に引用したようなしっとりとしたシーンの描写が巧い! スペンサーの車の名前が最近でてこないが、多分チェロキーのままじゃないかと思います。有力な刑事弁護士の赤いメルセデス・スポーツ・クーペとレクサス・セダン("レキシス"と訳されてましたが・・)、組織犯罪グループの弁護士の濃紺のレインジ・ローバー、ギャングのキャディラック・タウン・カーなども登場してくる。(1999/02/12)

忍び寄る牙エクスプローラーTrouble in Paradise (c)1998菊池光訳、早川書房,1999

『眠れない時は、それも以前ほどは多くはないが、ジェッシー・ストーンは、ロスから乗ってきた黒のエクスプローラーに乗り込んで、自分が警察署長であるマサチュセッツ州パラダイスの町をゆっくりと廻る。今夜のように、闇を通して雨が斜めに吹き付け、道路がライトで光っている時がいちばん好きだ。このような夜、かっての西部の町の保安官だったら楽しいにちがいない、と思った。オイルスキンのスリッカーを着て帽子を目深に引き下ろし、鞍の上でくつろいで、馬の好きなままに歩かせる。銀灯が放つ青い光が雨で拡散して、控えめなオパール色になっている。町のこの辺りでは、エクスプローラーのライト以外に明かりはまったく見えない。広場の周りの広い芝生があるきれいな家々は静まりかえっていて、真っ暗だ。町の図書館に明かりはない。
 車をゆっくりと進めて向きを変え、メイン通りを海の方に向かった。道路からおりてパラダイス・ビーチの車がいない駐車場に入っていった。エンジンをアイドリングしておいた。雨で海のにおいが強くなっている。ライトの中で波が押し寄せ、カールして盛り上がり砕ける。黒い大洋を見ていると強い雨が些細なことのように思える。』
--COMMENT--
 パラダイス警察署長ジェッシー・シリーズ第2作。署長役も板についてきたところに、高級住宅地スタイルズ島を襲う強力な窃盗グループと対決することになる。プロローグの部分を抜き出しているが、雨の夜、一人で車をドライブするシーンは、まったくパーカー調になっていて、とてもしっとりとした情感が醸し出されていますね。(1999/05/29)

家族の名誉レクサスFAMILY HONOR (c)1999奥村章子訳、早川書房,2000

『バック・ウェイ・フェンズへ向かう高架のあたりまで来ると、黒のレクサスが車間距離を詰めてきた。
わたしはフェンウェイで高架を降りて、マサチューセッツ街を南へ下った。レクサスはぴったりと後ろにつけていて、ワシントン通りとの交差点に差し掛かったとたん、追い抜こうとするかのように車線を変更した。後部座席の窓が開いたのに気付いてあわててブレーキを踏んだつぎの瞬間、散弾銃の弾がボンネットをかすめた。
とっさにハンドルを左に切ってワシントン通りへ曲がったが、レクサスもタイヤをきしらせて迫ってきた。ウォレン街にある警察署へ行こうと思ったものの、無事にたどりとどり着けそうにもない。2ブロック先の信号は赤で、しかも両者線ともずらりと車が並んでいる。
渋滞にまきこまれたらおしまいだ。だが、わたしは名案を思いつき、二度右折してトレモント通りへ向かい、バディス・フォックスの前の歩道に車を乗り上げた。トニイ・マーカスの店だ。助けてくれるかどうかわからないが、選択の余地はない。』
--COMMENT--
 女性私立探偵サニー・ランドルが主人公となるパーカーの新シリーズ。とうぜんだが、スペンサー・シリーズのテイストを色濃く維持していて、これまでの、スペンサーとスーザンの関係を、より女性側の立場で見極め直そうというスタンスが感じられる作品。 登場人物も職業とかは違うが、サニーはスーザン、サニーの元夫リッチーはスペンサー、サニーを助けてくれるゲイのスパイクはホーク・・と同じ役割をもたせている。
全く無気力で何にも興味をしめさない家出少女に、サニーが自立とか意志とかについて、何度も説くシーンがあって、これもパーカーのメッセージです。
少女『・・・わたしは腕立て伏せなんか嫌いよ』
サニー『できるんなら、やるかやないか自分で決められるわ。で、できないからやらないって言うんじゃ、自分で決めた事にはならないでしょ?』

<黒のレクサス>は、家出した少女とサニーを追うアイルランド系ギャングの車。米国ではステータスの象徴だったレクサスが、ギャング御用達にもなる普及ぶり、ということでしょうか? 他には"ボンネットがやけに長い、おかしなダッジ・セダン"?などがでてくる。(2000.11.4)

ハガーマガーを守れフォード・クラウン・ヴィクトリアHUGGER MUGGER (c)2000菊池光訳、早川書房,2000

『モーテルの表、ロビイのドアのそばに立っていると、ベッカーが黒のフォード・クラウン・ヴィクトリアでやって来た。ダッシュボードの上に青い閃光灯がのっていて、長いホイップ・アンテナが伸びている以外、警察の標識は付いていない。乗り込むと、車に食べ物のにおいが漂っていた。ベッカーはコーヒーを飲んでいた。彼の横に茶色の大きな紙袋があった。
「ソーセージ・ビスケットを買ってきた」ベッカーが言った。「それとコーヒー。適当にやってくれ」モーテルの前を離れて郡道に出た。
「グラノーラはないのか?」私が言った。
「それはアトランタに行かないととない。コロンビア郡の人間はグラノーラを食べないし、食べる連中を相手しない」
私はペーパーカップに小さな容器のクリームを入れ、砂糖を二、三個加えてかき回した。一口飲んで、真ん中に丸いソーセージの付いた大きなビスケットを取り出した。 「いいだろう」私が言った。「これで間に合わせるよ」
・・・・
 サラトガに関して困る点は、アトランタから千マイル離れている上に、私が車を運転することだ。サラトガに関していい点は、マサチュウセッツからさして遠くなく、五十マイルほど遠回りすれば、ボストンに寄ってスーザンを乗せることができることだ。ケンブリッジで精神科の開業をするのは、ぶったくりの免許をもらったようなもので、利益の多い一年を過ごすと、スーザンは、赤と黒の革張りの内装、ボタンを押せば上がり下がりするハードトップ付きの、小さな銀色のメルセデス・スポーツ・クーペを買った。
 というわけで、私たちはマサチュウセッツ高速道をニューヨーク州に向かって、制限をはるかに越える高速で突っ走っていた。時折、車は、私には分からない理由で車線を変えていた。』
--COMMENT--
 スペンサー・シリーズ27作。ジョージア州競馬牧場での銃撃事件の調査を依頼される。舞台がボストンを離れているので、常連のホークとかクワークが出てこないが、ホークの役回りの酒場の用心棒サップ、同じくクワークの、保安官代理ベッカーを登場させていてうまいコンビネーションになっていた。すっきりしたストーリー、要所での盛り上げ方など、円熟した味をだしている。(2001.4.28)

湖水に消えるエクスプローラーDeath in Paradise (C)2001菊池光訳、早川書房 2002

『ジェリー・スナイダーが、勤めているカー・ディーラーの店から出てくると、ジェッシイはジーンズにグレイのTシャツを着て、古ぼけたフォード・エクスプローラーのフェンダーに寄りかかっていた。ロスを出たとき、彼が東部に向かって運転してきたのと同じ車だ。
「なんの用だ?」スナイダーが言った。「お前はこの町の警官ですらないんだぞ」
「話をする必要がある」ジェッシイが言った。
「おれはお前なんかと話をしたくない」
「もちろん、そうだろう」ジェッシイがエクスプロアーの助手席のドアを開けた。「乗れ」
 ジェッシイはTシャツをジーンズの外に垂らしていた。ベルトの上に垂れ下がった右腰の拳銃を一部覆っていた。
「おれを逮捕するのか?」
「とんでもない」ジェッシイが言った。』
--COMMENT--
 パラダイス署長ジェッシイ・ストーンのシリーズ第3作。湖で見つかった身元不明の少女の遺体についてジェッシイが執拗に、その家族や、ボストンの犯罪組織を追求していく。
仕事を終えてからの街の男達との草野球のシーンが多くでてきて、ストーリーの柱になっていた。そう、小説の冒頭もそうだったし、結末も草野球のシーンだ。
ただ、別れた妻との複雑なやりとりは、もういいかげん何とかしてほしい…と思ってしまうほど飽きがきましたね。
シリーズ第2作『忍び寄る牙』でも、エクスプローラーについて同じような説明をしていたっけ。(2002.9.10)

二度目の破滅レクサスPERISH TWICE (C)2000奥村章子訳、早川書房 2001

『ロージーは車の助手席に座り、見知らぬ犬が通りかかったら唸ろうと、じっと窓の外を見つめている。わたしだって、ときには決心が揺らぐこともある。
ハルが運転するシルバーグレイのレクサスは、12時5分に駐車場の出口にあらわれた。車のプレートナンバーはエリザベスから聞いていた。ハルは駐車カードを機械に入れ、バーがあがると、ステート通りを左に向かった。
尾行は以外に簡単だった。ハルはわたしとロージーがあとをつけているなどとは夢にも思わずマサチューセッツ高速道にのってボストンを離れ、30分後にウェストンに着いた。
「まっすぐ家に帰るのかもね」と、わたしはロージーに話し掛けた。
だが、そうではなかった。自宅の2マイルほど手前でポスト・ロードからそれて、コロニアルスタイルの黄色の大きな家のドライブウェイに入っていったのだ。とおりすぎざまにちらっと目をやると、二台用のガレージの扉が開いて、ミアタとおぼしきグリーンの車の横の空いたスペースにハルがレクサスをとめるのが見えた。』
--COMMENT--
 女性私立探偵サニー・ランドル・シリーズ2作目は、ストーカー対策の護衛の仕事から端を発する。引用部分はサニーの姉の夫・弁護士ハルの浮気の現場を押さえにでかけるシーン。不安定な男女関係ばかりでてきてちょいと食傷気味なのが、最近のパーカートレンドか?  サニー自身の車は、"オリーブグリーンのスバル・ステーションワゴン"で、助手席にのせているロージーは、ミニチュア・ブルテリア…とぴったしの設定だ。彼女の前の夫が手配したボディーガードたちの"薄茶色のトヨタ・カムリ"なども登場してくる。(2003.12.21)

真相フォード・クラウン・ヴィクトリアBack Story (C)2003菊池光訳、早川書房 2003

『連中は汗まみれで顔を赤くしながら苦労しながら私の前を通った。通りすぎるると、私は枝の間から出て、入江を渡った。静かに動きながら小屋の裏で湖から出た。彼らは車のそばに誰かを残しているかもしれない。
二台の車、クライスラー・ルバロンとフォード・クラウン・ヴィクトリアが砂砂利の端で影でまだらな広場に音もなく停まっていた。びしょぬれのTシャツの下、ずぶ濡れのジーンズをとめている水を含んだベルトのホルスターに銃を戻した。「脱出」のバート・レイノルズのような気分だった。
両方の車を覗いた。誰もキイを残していなかった。誰かに見せるような感じで肩をすぼめてフォードのボンネットを上げると、イグニションを引き抜いて、つねに信頼できるホット・ワイヤ方式でエンジンをかけた。クライスラーのボンネットを上げると、スパーク・プラグを全部ワイヤから引き抜き、湖に放り込んだ。フォードに乗り込んで慎重に砂砂利を引き返した。』
--COMMENT--
 スペンサー・シリーズの30作目、28年前に母を殺された娘から、その犯人を見つけてほしいと頼まれる。きざな表現が相変らずではある(菊地光氏の訳出がそうなのか?)が、スペンサーが執拗に事件を追う姿はなかなか読み応えがあった。  ギャングの娘の家を訪ねた時の<灰色のトップのついた濃紺のBMW>、<黒のメルセデスSUV>なんかも登場してくる。(2004.3.12)


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