lagoon symbol
T.JEFFERSON PARKER /T.ジェファーソン・パーカー

嵐を走る者ダッジ・マグナムSTORM RUNNERS (C)2007七搦理美子訳 早川 2009

『ストロームソーは車を出し、セドロスの家のドライブウェイに入って急停止した。セドロスは車から飛び出して、乱暴にドアを閉めると、足早に家へ向い、妻がスクリーンドアを開けると、その横をさっさと通り過ぎて姿を消した。
 ストロームソーが車をバックさせて通りに出ると、ダッジ・マグナムの黒い新車がジャカランダの大木の下に停まっていた。青紫色の花がボンネットの上に散り、ドライバーの顔はフロントガラスとサイドウィンドウの遮光ガラスにさえぎられてほとんど見えなかった。
 誰もが誰かを見張っている。
そのままアズーサ通りに出て、改造車を乗り回す若者やきれいな女の子たちを横目にゆっくり車を走らせてからセドロスの家へ引き返した。マグナムはセドロスの家のドライブウェイに停まっていた。そこから十分離れて車を止め、グローブボックスから双眼鏡を取り出してマグナムのナンバープナンバープレートをメモした。約20分後、男がスーパーのビニール袋を両手にぶらさげて家から出てきた。』
--COMMENT--
 かっては親友同士だった二人が、サンディエゴの保安官補とメキシコ・マフィアのボスと別の道を歩み、人工降雨の研究者で天気予報キャスターのボディガードとなったストロームソーを執拗に追う。自分を狙った爆破で妻子を失ったわりには、主人公の怒りがあまり表に出ずもの足りないし、あっけない最後の決着などいまひとつ。
 南カリフォルニアの気候や自然に触れているところなどは私好み。抜き書きにもあるジャカランダの花が車の上に積もるように散る様が何箇所か書かれていて、ぜひそんな様を見てみたいもの。時期は5月でしょう。
 主人公が妻子を亡くして保安官補を辞め隠遁するフロリダに向かうフォード、2年後サンディエゴに戻って使う"黄色の中古のトラック"、お天気キャスターの"赤のマスタング"、水道電気局職員の"ゴールドのセダン"、同局利水部長の"黒のリンカーン"、マフィアがキャスターを狙うとき使う中古のクラウン・ヴィクトリア警察仕様車、マフィアの下っ端の"車高を低くした赤のホンダ・アコード"など。珍しく日本車の登場が少ない。(2009.4.17 #590)

コールド・ロードポルシェCold Pursuit (C)2003七搦理美子訳 早川 2007

『「保安官事務所のおとり捜査チームがハイアット・ホテルのスイートで彼を逮捕したその夜まで、気づかなかったのですか?」アンドレアは口調に疑念をにじませながら訊ねた。
「ええ、そのときまでまったく気づきませんでした」
その返事に対する彼等の反応―眉をうごかしたり、視線を投げかけたり、首を振ったりといった、言葉を伴わない思わせぶりな身振り―をマクマイケルはじっと見ていた。
 勝手にしてくれ、お彼は思った。真実に真正面から取り組む勇気がないのなら。
「では、彼がポルシェの新車に乗っていることも疑問に思わなかったわけだ」とフザラが言った。
「その車をわたしは見たことがありません。』
--COMMENT--
 久しぶりのジェファーソン・パーカーのノンシリーズ8作目は、サンディエゴ市警殺人課部長刑事のマクマイケルが名門家富豪の殺人事件を追う。サンディエゴの街の様子や暮らしぶりの描写は興味あったものの、名門家の三代におよぶ確執…マクマイケル自身が対抗する名家の出になるという出来すぎの配役とか、被疑者の看護婦にいちころに恋してしまったり、離婚した妻と息子との関係など、トピックスが過剰すぎて600ページ読みきるのにはかなりの忍耐力が必要。
 引用は同僚だった刑事が麻薬所持で逮捕されマクマイケルが尋問を受けるシーン。細かい点だが、このポルシェの購入価格が"6千ドル"となっていた。これは誤訳かどうか不明ですが、"6万ドル"でしょうね。ほかには、別れた妻の相手(口腔外科医)のフェラーリ・テスタロッサ、富豪の娘の夫のジャガー・クーペなどゴージャスな車ばかりが登場する。(2010.5.7 #632)


作家著作リストP Lagoon top copyright inserted by FC2 system