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Peck, Richard /リチャード・ペック

シカゴよりとんでもない町1950年型4ドアのナッシュA Season of Gifts (c)2009斎藤倫子訳 東京創元 2010

『目撃証言によれば、新月の金曜日の晩、少女たちは我が家の裏のうちの車のそばで落ち合った。そう、わたしたちは車をもっていた。ただ、ガソリン代がないうえ、エンジンをかけるのに1リットルものガソリンを消費したから、ほとんど動かしていなかったが。我が家にあったのは、1950年型4ドアのナッシュだ。わたしたちは、その形から、この車をピクルスと呼んでいた。色も緑色だった。
 駐車してあったピクルスの脇から、少女たちはカンナの向こう側を見ることができた。カンナの向こうでは、ダウデル夫人が消えかかった焚き火の前で前かがみになって眠り込んでいる。膝の上の散弾銃は銃身と銃床のあいだでふたつに折れたままになっている。銃は今にも膝から滑り落ちそうだ。あたりは、まるで墓地のように静まり返っていた。きこえるのは、地面の近くを吹き渡るかすかな風が納屋の壁をつたうヒョウタンのつるを揺らすかさこそという音だけだ。』
--COMMENT--  いくつもの児童文学賞を受賞している著者の"型破りなおばあちゃん・シリーズ"第3作。新任の牧師の一家が越してきた家の隣に住んでいるのは九十に手が届こうというのに、いまだかくしゃくとしているダウデル夫人。近所づきあいはしないし、どこの教会に行くこともなく、気難しいうえに、なんと武装までしているというのだ! 魔女のように巨大な鍋でアップルバターを作り、スイカ泥棒に向けては銃をぶっぱなす。畑に埋まっているというキカプー族のプリンセスの幽霊をネタに、牧師一家も巻きこんでのひと騒動を巻き起こす。イリノイ州の田舎町に住む人々のほのぼのとした生活ぶりがよく伝わってくる作品。
 引用にあるような時代の車がけっこうたくさん登場する。伝道興行のグループのリンカーン・コンチネンタル、警察署長のダッジ、学園祭パレードに登場する"ハップモービルのセダン…1932年型あたり ??"、少年が飲酒運転して衝突させたデソート…泥よけフラップと、リスの尻尾のようなテールフィン、スリップクラッチと爆音をたてるハリウッド・マフラー??…児童文学にしては車についてのディテールがなかなかのもの。(2011.8.18 #703)


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