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PERRY, THOMAS /トマス・ペリー

メッツガーの犬フォルクス・ワーゲン、ほかMETZGER'S DOG, (c)1983文春,1986

『周囲を見回すと、数百台の小型車が散らばっていた。どの車もワックスをかけてピカピカに磨きあげており、緑草の上でその固い表面は彩色陶器のようにつややかな光沢を放っていた。
 ケプラーが草地の道の両側の立木に張り渡された、幅の広い白の横断幕を指さした。「気にくわねえな。何が外車ラリーだよ。RALLYEなんて、まともに発音できるかい。こんな発音ができたら、それこそまぬけに聞こえるだろうぜ。こんなのを使うから、言いやすいRALLYの方を言うたびに、なんだかぎこちない感じになっちまうんだ。」
「そんなにわめくなよ。どう思う?みんな用意はできているのかい?」 広々とした草地の向こう側では、インメルマンがマーガレットのフォルクスワーゲンのホイールキャップに薄くつもった砂ぼこりを念入りに拭っていた。
「ほら、こんなにきれいに見えたのは初めてだぜ」
「この車、ポルシェやジャガーやBMWに囲まれて、ちょっとおじけづいているんじゃないの」とマーガレットが言った。
「今日は少なくとも百台のフォルクスワーゲンが集まっている。心配するなよ。これはレースじゃなくて、ピクニックみたいな催しなんだ。この連中はあんたの運転なんか眼中にない。あんたに自分の腕前がどんな物か見せて、感心してもらいたいだけさ」』
--COMMENT--
ユーモア・ミステリーとして充分楽しませてくれるトマス・ペリーの事実上の処女作。ペリーはこれまでの作品にもかならず車がそれなりの役割で登場させている。
 タイトルのメッツガーとは、主人公チャイニーズ・ゴードンが飼っている猫のドクター・ヘンリー・メッツガーという人をくった名前からきており、なぜか凶暴な番犬がその猫になついてしまうといった話の進行とは殆ど関係のない洒落。(92/07)

殺し屋の息子コルヴェット、トヨタ、マツダSLEEPING DOGS, (c)1992福武書店,1994

『11時には、リトル・ノーマンは二度目のカジノ視察を行っていた。全ての場所とは行かなくても、ほぼ目標を達成できそうだった。顔見知りとは目で合図を交わす。
 朝の6時、リトル・ノーマンはサンズの駐車場に置いた愛車に戻った。ブライト・レッドのコルヴェット、その気になれば 150マイルまで出せるエンジンを搭載。一代目を買ったのが1960年のことで、その後幾度となく下取りに出しながら、買い替えるのはいつもブライト・レッド。カンザスシティで初めて目にした色だ。コルヴェットの色はブライト・レッド以外には考えられない。リトル・ノーマンは人を追いかけるより、車に生きがいを見出してきた。・・・
サルヴァトーレが用意した車はすぐに見つかった。小さなグレイのトヨタで、登録者のオラリーという、ガソリンスタンドの経営者は、これを代車として常連客に貸し出していた。アンジェロは停めてある自分のキャデラックには振り向きもせず、駐車場からトヨタを出した。慎重に運転した。市民の多くに貸し出され、掃除もされないこの車は、いまや指紋のコレクションと化しているだろうが、ぶつけでもしたら誰が運転していたにか疑問の余地はなくなるのだ。・・・・
ウォルフは、グリーンのマツダがドライブウェイからバックで出てくるのを見ると、相手の目に止まる頃合を見計らって玄関を出た。頻繁に顔をさらすのは本意ではないが、女の目の隅に止まり、向かいの住人として意識してもらうことは必要だ。』
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ペリーの処女作[逃げる殺し屋]から10年目の続編にあたる。アメリカ中のマフィアから追われる殺し屋ウォルフが壮絶な戦いを挑むクライム・ノヴェル。
 上記ノーマンはカジノのオーナー、アンジェロはマフィアであり物騒なことをするため代車のトヨタで出かける。最後のマツダは司法省組織犯罪課の女性捜査官の車などとそれなりのチョイスである。(94/12)

蒸発請負人ホンダ・アコードVanishing Act, (C)1995講談社,2001

『ジェーンはシラキュース空港近くのモーテルにチェックインして、新聞を読んだ。彼女の毎日はよりたくさんの新聞を読むことから始まった。
 彼がルイス・フェンから預かった車の走行距離は約530マイルを示していた。メドフォードまで500マイル、サンタ・バーバラまで600マイル走り、100マイル先でロサンゼルス起点のの幹線に乗り、ニューヨーク北部までほぼ3000マイル走ったはずだ。それで5000マイルになる。
 ジェーンは新聞を広げてディーラーの広告を探した。ウォータータウンのディーラーに新車のホンダ・アコードがあったが、スタンダード・トランスミッションだった。オグデンズバーグにはグレーのアコードがあったが、17,000マイルだった。マッシーナには一台もなかった。ほかに、シラキュース、ローム、ユーティカ、トロイ、オルバニーのいずれにも中古車ディーラーがたくさんあって、彼女は必死でしらべた。』
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 タイトルのとおり、様々な事情から身元を隠して第二の人生をはじめたいと思っている人間の手助けをするジェーン・ホワイトフィールドを主人公にすえたシリーズ第1作目〔すでに5作が書かれている〕。アメリカ・インディアンの血筋をひく主人公の特異さ、アウトドア・サバイバル味たっぷりの森林地帯での追撃シーンなど迫力たっぷり。
 ただし、文句を言っても仕方ないけど翻訳がもう酷い。日本語になっていないし、意味が繋がらないようなセンテンスが多く、これなんなの…と、原文をチェックしたくなる場面がしょっちゅう。タイトルで検索したら一発目で、克明に悪翻訳を指摘していたywadさんの読書メモに出逢った。
 上記は、自分が逃亡をセットアップした男に危険が迫っているので、用意した車を探し出そうとするシーン。男は、アコードから黒のフォード・ブロンコに乗り換えて奥地へ逃亡していた。(2004.3.18)


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