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Pressfield,Steven /スティーヴン・プレスフィールド

砂漠の狐を狩れシボレー、ジープKILLING ROMMEL (C)2008村上和久訳、新潮 2009

『われわれは窮地に立たされた。高地には草木は生えておらず、身を隠すものはなかった。シュトルヒはわれわれの真上で旋回している。戦闘機や爆撃機がすぐに頭上にやってくるだろう。ホールデンはアクセルをいっぱい踏み込んだ。ジープは、轍のついた大理石に深さ5センチのタルカムパウダーが積もったような地表を、斜面の上に向かってがたがたと登っていった。コリーはわれわれの右をじりじりと進んでいく。背後でパンチがシュトルヒの一機に連射をお見舞いするのが聞こえた。
 わたしの頭にあったのは任務のことだけだった。誰か一人が脱出して、無線トラックのところへ戻らねばならない。
 こちらの有利な点は、シボレーとジープが追撃する敵の装甲車より速くてすばしっこいことである。こちらは数百キロ分の燃料を持っていたが、向こうはタンクに入っている分だけだ。不利な点は、敵の武装だった。撃ちあいになれば、こちらに勝ち目はない。シュトルヒは非武装だが、一日中頭上に留まっていりことができる。マッキやメッサーシュミットが現れたら、われわれの余命は何秒まではいかないが何分かに縮まるだろう。
 われわれは全速力で山麓の丘陵地帯に逃げ込んだ。麓のほうからは装甲車があとを追いかけてローギアでじりじりと進んでくる。』
--COMMENT--
 オビ<ロンメル元帥を殺害せよ! 北アフリカ戦線に展開した実在の特殊部隊の秘話を描く戦争冒険小説>…の通りで、長距離砂漠挺身隊に志願した青年チャップマンが小隊をひきいて困難な偵察や攻撃に遭遇しながら、最後には負傷した敵兵をドイツ軍基地に届け、なんとロンメルと対面する。敵対するものの、過酷な北アフリカ砂漠という同じ舞台で生き抜こうとする同士の友愛も感じさせる。
 全編にわたって長距離砂漠挺身隊(LRDG)のシボレー・トラックとジープが主役となり進撃や故障、燃料補給、砂漠荒野の走法など興味がつきない。1942年製1.5トンのシボレーは、タミヤのホームページのトップにも登場する人気プラモデルのようだ。1/35 スケール限定商品「イギリス L.R.D.G. デザートシボレー & ブレダ20mm対空機関砲」
 なお、本書では"長距離砂漠挺身隊"と表記されているが、戦史、軍事百科に書かれている"長距離砂漠挺進隊"の方がぴったりする。(2009.6.2 #595)


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