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RANKIN, IAN /イアン・ランキン

血の流れるままにデロリアンLet It Bleed (C)1996延原泰子訳 早川 2007

『「ここだと非常に安く会社を設立できるんでしょう?」
「地域によっては、そうです。多額の補助金がだぶついていますからね。欧州共同体や英国政府国庫からの…」
「自動車会社を作った<デロリアン>のスキャンダルがありましたね」リーバスが言った。
「だがあの男は実際に"バック・トゥ・ザ・フュチャー"まがいの、すごい車を持っていた」
「そして英国の納税者から何百万ポンドもだまし取った」
「発覚してなかったら、いあmだにあなたはその税金を払っていたかもしれませんよ、警部。デロリアンが盗らなかったとしても、誰か他の者が騙しとったかも しれない」ホールデンはまた肩をすくめた。彼の音声も身振りもつねに少しばかり大げさでスコットランド人よりわざとらしい。』
--COMMENT--
 刑事ジョン・リーバスを主人公にしたシリーズ7作目。スコットランドへの企業誘致にかかわる不正を暴こうとした議員の死を巡って執拗に聞き込みを続けるリーバスの姿が印象的。
 引用はアメリカ領事館員ホールデンとの会話で、そういえばデロリアンって昔あったなぁ…と思い出しましたね。他には、誘拐犯のフォード・コルチナ(追跡 のため大カーチェイスがあり、運転する上司にスピードを抑えてと懇願するリーバスはケッサク)、女性刑事の"チェリーレッドのルノー5"、スコットランド 省事務次官宅のローバー800、ジャガーとマセラッティ、同省職員の"灰色のトヨタ・スポーツ・セダン"など。リーバス自身のボロらしい車も登場するが本 書のなかに車名は出てこなかった。(2010.7.13 #641)

最後の音楽ベントレー・コンチネンタルGTExit Music (C)2007延原泰子訳 早川 2010

『「男性がこっぴどく殴られて殺され、殺人犯はまだ捕まっていない。犯人を見つけるのが警察の仕事です―そのことでご迷惑をかけるとしたら申し訳ない」
「あんまり申し訳なさそうな声じゃありませんね」ロジャー・アンダースンが不満そうに言った。
「いや、実際のところ、おれの心は痛んでいるんですよ。そう見えないとしたら、お詫びします」リーバスは帰ろうとするかのように向きを変えたが、そこで立ち止まった。「それはそうと、どんな車種なんですかね、明るいところに停めておきたいというあなたの車は?」
「ベントレーだ、コンチネンタルGT
「ということは、ファースト・オルバナック銀行の郵便仕分け室で働いているんじゃなさそうですね?」
「そこからのスタートではないとは言わないがね、警部。もうこれでごめんこうむってもいいだろうか、レンジの上で夕食が焦げてる音が聞こえるように思うんでね」』
--COMMENT--
 20年にわたって続いてきた警部リーバス・シリーズの、いよいよ最終作18作。60歳の定年退職を10日後にひかえ、エジンバラ城わきでロシアからの亡 命詩人が撲殺され、地域経済振興をもくろむ政治家やロシア投資家、地元の銀行家やごろつきなどなど複雑に入り組む事件をかわいがっているシボーン刑事とと もに追う。  登場人物がそれぞれ個性的でしっかり描かれていたり、しゃれた会話や破綻のない中身の濃いトピックがどんどん続き、現代の英国警察ものとしてもとてもよ く出来ている。未読のものが多いので既刊をじっく遡って読みこんでみたい。
 引用は殺人現場の通報者から聞き取りをするシーン、もちろん高級車ベントレーのなかでも最速・最パワフルの6リッター W12気筒ツインターボ・グランドツーリングだ。リーバスのぽんこつサーブ900、殺人現場近くにに駐車していたレクサス、駐車場管理会社の女性監督の黒 いVWゴルフ、録音技師のTVR、鑑識スタッフのプリウス、麻薬取締り官のヴォクスホール・ベクトラ、銀行家のポルシェ・カレラなどなど…登場車も多彩。 (2011.2.26 #677)

蹲(うずくま)る骨サーブSet in Darkness (C)2000延原泰子訳 早川 2001

『ローナ・グリヴはあれほど飲んだ酒の影響が顔に出ていなかった。リーバスのサーブを骨董品のようにしげしげと眺めた。「まだこの車種を作ってるの?」
「新型はガスランプがついていないんですよ」リーバスが教えると、ローナがにっこりした。
「ユーモアがあるのね、嬉しいわ」
「もう一つだけ…」リーバスは車に体を入れ、<オブスキューラ>のアルバムを取り出した。
「こりゃ驚いた」コードヴァが言った。「こんなもの、めったと出回っていないのに」
「どうしてなの」妻は呟き、ジャケットの自分の顔に見入っていた。
「サインをもらえないかと思いましてね」リーバスはペンを出しながら言った。
 コードヴァはペンをとった。「いいとも。だがちょっと待てよ、おれのサインか、それともハイ・コードと書くのかな?」
リーバスがにっこりした。「ハイ・コードに決まってます、そうでしょう?」』
--COMMENT--
 警部リーバス・シリーズ11作は、エジンバラの歴史的建造物の壁から人骨が発見され、さらに議会選挙の有力立候補者と、もう一件の他殺事件が続けておき る。捜査チームに割り込んできた警察本部警部をいなしながら、相変わらず上層部に煙たがれながらも自分のペースを突き通すリーバスがうまく描かれている。
  引用は、名門の一家で殺された候補者の家族に聞き込みしにいったときのシーン。音楽プロデューサーの夫が制作したアルバムにサインを貰うのだが、この後 ちゃっかりと馴染みのレコード店へ売りに出す。『最後の音楽』でも、サインいりのレコード(だったか?)をヤフー・オークションへ出品するシーンがあって 微笑ましい。
 その他の主な登場車は、死体保管所の"ベッドフォードの灰色のヴァン"、警察本部のいけ好かない警部の"つやつやと輝く新しいBMW…3シリーズだ が"、女性を襲う暴漢のシェラ・コズワース、名門一家のパーキングにあったフィアット・プント、ランドローヴァー、くたびれたベンツなど、返り咲きを狙う ギャングの"7シリーズの黒いBMW"と"メタリックグレイのジャガーXK8"、大手建築業者の赤いフェラーリなど。 登場する主な楽曲・アルバムをコレクションしている方もいるんですね、すごい。(2011.3.10 #678)

首吊りの庭サーブThe Hanging Garden (C)1998延原泰子訳 早川 1999

『リーバスの車が戻ってきた。埃のこびりついたトランクに誰かが指で、二つのメッセージを書いていた。<ポンコツカー>と<スティービー・ワンダーが洗車したのか> 憤慨したサーブ900は、一発で始動し、いつもの異様な振動や雑音を少し減らしたようだ。帰宅する道中、座席にしみこんだウィスキーの臭いを嗅がないですむように、リーバスは窓を開けっぱなしにして走った。
 澄み切った空の、すがすがしい夜となる、気温が急激に下がった。運転者の嫌う、低く赤い太陽は、既に家並みの下に没している。リーバスはコートのボタン を外したまま、近所のフィッシュ&チップス店へ歩いていった。魚のサパーとバターロール二個、アーンブルー二缶を買って、フラットに戻った。テレビは何も やっていなかったので、レコードをかけた。ヴァン・モリソンの《アストラル・ウィークス》。レコードは皮膚病にかかった犬よりもひっかき傷が多い。』
--COMMENT--
 警部リーバス・シリーズ第9作は、街を牛耳ろうとするギャンググループの戦いと、大戦末期フランスの村でおきたナチス大虐殺の首謀者であった亡命者の捜 査、リーバスの娘が車にひき殺されそうになる…三つの事件が入り組んで進行する。ギャングたちの全面抗争を避けるために、両方のボスとの交渉をする辺り は、一匹狼リーバスの真骨頂となるところ。
 引用は、何者かに盗まれ、ひき逃げに使われたリーバスのサーブが戻ってきたシーン。珍しく禁酒中のため、酒の臭いを嫌っていることが含まれている。ほか の登場車は、元からのギャング団のレンジローバー、娘のサニーを轢いた白のエスコート、ロンドン警視庁警部のシェラ、リーバスの弟の赤いBMWなど。
 他の作品をあわせても、Van Morrison を聴くシーンが一番多いような気がする。@fwit7183さんの登場する楽曲・アルバムは相変わらず緻密なコレクションですね。(2011.3.22 #680)

黒と青アストラBlack and Blue (C)1997延原泰子訳 早川 1998

『ヘリから降りた後、ジャックは顔色が青く、気分が悪そうに見える。リーバスといえば、飛行の間中、腹いっぱい平らげた朝食のことを考えないようにしていた。
「海って青いんだな」
「あと二分飛んでいたら、おまえの顔だって同じ色になるさ」
「それに空も…すごいな」
「ニューエイジを気取るなよ。それより救命衣を脱ごう。エスコートに乗ったエスコートが迎えにきたぞ」
 ただしそれはアストラで、三人が乗ると余裕がなかった。制服警官の運転手が雲をつく大男だったので、なおさらだった。ヘルメットを脱いでも、頭が車の天井をこすっている。声は電話の声と同じだ。会ったとき、彼は外国の使節を迎えるようにリーバスと握手したものだ。
「シェットランドに来られたことがありますか?」
ジャックはかぶりを振り、リーバスは来たことがあると答えて、それ以上の詳しい説明は避けた。
「で、どこへお連れしたらいいですか?」
「きみの署へ」リーバスは狭い後部席から言った。「きみをそこでおろして、車は用事が済んだら署へ返すよ」
 グレグザンダー・フォレスという名前の制服警官は、落胆の声をあげた。「でもわたしは警察に20年勤めているんですよ」「それが何か?」
「これが初めての殺人捜査なんです!」
「あのな、フォレス巡査部長、被害者の友人の聞き取り調査のために、ここへ来ただけなんだ。身辺捜査だから、退屈きわまりない仕事なんだよ…」
「いや、それでも…楽しみにしてたんです」』
--COMMENT--
 警部リーバス・シリーズ第8作は、1997年英国ゴールド・ダガー賞を受賞。昔の連続絞殺魔事件の模倣犯らしい事件が続き、警察内部調査に縛られる一匹狼リーバスが何回かアバディーンの顔役に脅かされ怪我をさせられながらも執拗に犯人たちを追う。本拠地エジンバラに加え、舞台となるグラスゴー、アバディーン、シェットランドの風土気候、社会が丁寧に書き込まれているし、リーバスと登場者たち(半端じゃない人数の登場者をフォローするのが困難だけど…)のユーモアたっぷりの会話などよくここまでエネルギッシュに書き込めるなあと驚くばかり。そうそうリーバスが本書から断酒に挑戦する葛藤も見もの。
 引用は、事故死した男がつとめていた北海油田会社のあるシェトランド諸島に、お目付け役のジャックと出かけるシーン。リーバスの自分の車は古いヴォルヴォ、油田会社経営者の赤いジャガー、お目付け役警部の黒いプジョー405ターボ(リーバスは禁煙ステッカーを無視して車内で喫煙…芸が細かいなあ)など。
 登場する楽曲・アルバムは@fwit7183さんコレクションをご参照。(2011.4.27 #683)

死者の名を読み上げよサーブThe Naming of The Dead (C)2006延原泰子訳 早川 2010

『リーバスは運転席側の窓を開け、涼しい風を心地よく感じながら走った。アウキテラーダーへの最短ルートを知らないが、キンロスからグレンイーグルズ・ホテルへ行けることはわかっていたので、そちらに車を向けた。
 二ヶ月前、カーナビを買ったのだが、まだ説明書を読んでいないのだ。カーナビは空白の画面のまま、助手席に転がっている。そのうち、車にCDプレーヤーを取り付けてくれたガソリンスタンドへ持っていくつもりだ。
 後部座席やトランクを探してみたのだが、ザ・フーのCDが見つからなかったので、エルボウを聴いている。シボーンお勧めのバンドだ。アルバムのタイトル曲《リーダーズ・オブ・ザ・フリー・ワールド》が気に入り、それをリピートにしている。ヴォーカルが、60年代以後に世の中がおかしくなった、と歌っていた。リーバスも、別の観点から同じ結論に達していたので、同意したくなった。しかしヴォーカルはもっと変化を望んでいるのだろう。グリーンピースや核兵器廃絶運動が支配する、貧困とは無縁となった社会の到来を。』
--COMMENT--
 リーバス・シリーズ第17作は、エジンバラでG8会議が開かれ、警察上層部が捜査を止めさせたがったいるなか、シボーンと執拗に連続殺人犯を追う怒涛の一週間を描く。
 相変わらずの登場人物の多さ、複雑な利害関係、一向に犯人像が明らかにならない、会話・ディテール描写の巧みさなど読み応えのある作品になっている。
引用はリーバスのサーブ。カーナビを取り付けても使えるようにはなりそうもない。地元ギャングの紺色のベントレーGT、G8関係者用のアウディA8など。(2011.6.20 #691)

獣と肉ヴォルヴォS40FLESHMARKET CLOSE (C)2004延原泰子訳 早川 2005

『エレン・ワイリーの車はヴォルヴォS40で、まだ3000キロぐらいしか走っていなかった。助手席にCDが何枚か置いてあったので、リーバスはCDを操ってみた。
「どれか、かけてもいいですよ」ワイリーが言った。
「まずシボーンに携帯でメッセージを送らなきゃならない」リーバスが言い返した。ノラ・ジョーンズ、ビースティ・ボーイズ、マライア・キャリーの中から誰かを選ばなくてはならない苦痛を免れる口実だ。"6じはいけない8じならなんとか"という文字を打つのに、たっぷり数分かかった。送ったあとで、なぜ電話をかけなかったんだろう、それなら時間が半分もかからなかっただろうに、と思った。ほとんど間を置かずにシボーンが電話をかけてきた。
「何なの、わたしをからかっているの?」』
--COMMENT--
 リーバス・シリーズ第16作は、グラスゴー市内で殺された移民男性の事件と、パブの地下で発見された白骨、シボーンが以前関わった家族の娘の失踪をからみあわせながら移民問題に切り込んでいく。ランキン作品が読みごたえあるのは、とことんディテールにこだわりそれらが人物描写や情景説明に十二分に奏効しているからでしょうね。ランキン作品のなかでも超おすすめ作品と言えよう。
 引用は人手不足によって臨時に派遣されたウエスト・エンド署の女性刑事の車に同乗するシーン。硬派ロック好きのリーバスにとって、ヒップホップやポップス系シンガーなんか聴いちゃいられない…ということ。シボーンがプジョーを自宅近くで駐車させる苦労話、家賃取立て屋の"日本製スポーツカー"、いけすかない若手医師のアストン・マーチン、ストリップ・バー経営者のBMW X5、PRカンパニー女性社員のポルシェ、移民局係官のヴォクスホール、違法移民就労者の手配師のBMW 7シリーズ、ウェスト・エンド署警部のデーウー(GM大宇自動車Daewoo、現在は韓国GMに社名変更)など。(2011.7.7 #694)

影と陰サーブHide and Seek (C)1991延原泰子訳 早川 2006

『リーバスは受話器を置き、上着を着てフラットを出た。トルクロスに近づくにしたがって道路が混み、そのあとロウジアン・ロードからプリンシズ・ストリートを越えてクィーンズフェリー・ロードへ入るまで渋滞が続いた。公共交通機関の自由化にともなう、市の中心部はバスの天下となった。二階建てバスや普通のバス、ミニバスまでが客を奪い合うのだ。ワイン色のLRT社の二階建てバス2台と緑色のバス2台に前方を塞がれたリーバスは、たちまち自制心を失った。クラクションを勢いよく鳴らしつつ、ハンドルを切り、渋滞した車列を猛然と追い越した。両方向へゆうくりと進む車の流れの間をすり抜けてきた。バイクのメッセンジャーが衝突の危険を避けようとしてぐらつき、横滑りしてリーバスのサーブにぶつかった。リーバスは車を停めなければならないと知ってはいたが、速度を緩めなかった。
 磁石式点滅燈のついたサイレンを持っていないのが悔やまれた。夕食やら約束に遅れそうなときに、刑事たちはそれを自分の車に取り付ける。』
--COMMENT--
 リーバス警部ものがシリーズ化された第2作。エジンバラ郊外の公営団地の空き部屋で発見された麻薬過剰摂取の青年の事故死から地元の有力者を巻き込む事件に発展する。近作ほどには込み入った仕掛けはないものの、がむしゃらに突き進むリーバスのキャラクターや、人づかいの荒さ、女性との付き合いの下手さなどこの20年前の作品でもしっかり描かれている。
 引用は事件の鍵をにぎる人物が収監され、ようやく突破口を開けそうになりサーブで急行するシーバス。犯人たちの"古びた紫色のメルセデス"、亡くなった若者の仲間をつけまわすフォード・エスコートの男、巡査たちのマイカーはメトロとホンダ750cc、不動産業者のV12ジャガーなどが登場する。(2011.7.14 #695)

死せる魂TVRDEAD SOULS (C)1999延原泰子訳 早川 2000

『「まだフェティス署にいるの?」
ジェーン・バーバーがこっくりとうなずく。「性犯罪課に」
「今も警部?」
またうなずく。--中略--
リーバスは煙草の煙越しに彼女を観察した。背が高くて、リーバスの母親なら"骨太な女"と形容するにちがいない。肩までの茶色い髪にウェーブをつけている。からし色のツーピースに色の薄いシルクのブラウス。ほくろが頬と顎に一つずつ。三十代なかばか…?リーバスは年齢を当てるのが苦手だ。
「じゃあ…」ジェーンは立ち去ろうとしかけて、去りがたくぐずぐずしていた。
「では、失礼」背後から声がした。振り向くと、リチャード・コードヴァが車へ向かっていた。赤い高級スポーツカーTVRで、気に入った文字の入ったナンバープレートがついている。車のキーをまわすときには、すでに二人の存在を忘れているようだった。
「あの冷血漢」バーバーがつびやいた。
「金が少し浮いたのにな」
彼女がリーバスの顔を見た。「どういうことです?」
「TVRにエアコンをつけなくたってよかったんだ、冷血漢なんだから。ほんとに飲まないのか?少し尋ねたいことがあるんだが…」。』
--COMMENT--
 リーバス警部・シリーズ第10作は、当時社会問題化していた小児性愛者や幼児虐待の事件に焦点をあていつもの通り、先輩刑事の墜死の理由、学生時代の恋人の息子の失踪、アメリカから帰国した連殺人犯の不気味な挙動なのどいくつもの事件が平行して進行する。またリーバスが兵役に就いたときの意外な事情がはじめて明かされるなどなど本作も、とことん楽しめるディテールと機知に富んだ会話、考え抜かれたプロットなど凄い。読みきるのに3週間もかかってしまった。
 引用は、法廷証言で嫌味な弁護人リチャードにつつかれたあと、彼の車を見送るシーン。ほかに、シボーンのローヴァ200、タブロイド紙記者のアトラス、引用のバーバー警部のクリーム色のフォード・モンデオ、事件解明のとっかりとなる白いベンツのセダンなど。 (2011.7.30 #697)

サーブTHE FALLS (C)2001延原泰子訳 早川 2002

『狭い小道が村からくねくねと上り坂で続いていた。その小路をたまたま走るものは、リーバスのように、行き止まりになるか、どこかの家の私道に入るのだろうと思い込むに違いない。しかししばらくすると、少し開けたところに出た。リーバスはその端っこにサーブを停めた。
 リーバスは都会暮らしの本能に逆らえず、車をロックし、そこから踏み越し段を越えて、牛が草をはんでいる牧草地に入った。牛は農夫におとらず、リーバスに関心を持たなかった。
 牛の臭いが立ちこめ、鼻息やもぐもぐと食べる音が聞こえる。牛糞を踏まないように注意しながら、近くの並木のほうへ歩いていった。並木は小川のありかを示していた。それを辿れば滝があるにちがいない。そこで、ベヴァリィ・ドッズは昨日の朝、ちっぽけな棺とその中に入った人形をみつけたのだ。フォールズという地名の由来となった滝を見たとき、リーバスは笑ってしまった。水の落差は1メートルあまりしかない。「お前はナイアガラとはほど遠いな?」』
--COMMENT--
 リーバス警部シリーズ第12作は、失踪した銀行家の娘の事件。リーバスは、娘の実家の近く近くで見つかった人形の入った棺が何がしらの関係がありそうだと勘を働かせ、一方同僚のシボーン刑事がクイズマスターというクイズマニアからの難問を解きながら被疑者に接近していく。550ページもの厚さに圧倒されながらも、筋立ての巧妙さを堪能できる。リーバスが好きになる博物館の女性学芸員、主任警視のジル、微妙な関係のエレン部長刑事、フィナーレを飾るフォールズの工芸店主ベヴなど女性の登場が多いのも本書の特徴のようだ。
 引用は、本書タイトルになったフォールズに始めて聞き込みにいくシーン。失踪した娘のボーイフレンドのMGコンヴァーチブル、地元紙記者の赤いフォーカス、ローヴァーとBMWで張り合っている地元住人、クイズマニアの刑事のアルファ、葬儀屋のヴォルヴォS40、銀行家の親族の豪華なマセラッティとアストン・マーチンDB7、工芸店主のぴかぴかのBMWなどなど登場車も多い。 (2011.10.16 #712)

甦る男レクサスResurrection Men (C)2001延原泰子訳 早川 2003

『彼らは6時まで事件簿に取り組み、アーチー・テナントも最後まで皆の傍に残っていた。とうとう、何も結果が出ないまま終わったとき、ウォードが一緒に出かけないかとテナントを誘った。ほかの者の表情を見たせいか、テナントは穏やかな言い方で断った。
「やめておこう、きみたちはわたしを酔い潰すだろうから」
 二台の車に6人。リーバスが運転手を務め、後席にはグレイとスチュ・サザランドが乗ったのだが、グレイはリーバスのサーブを、ちょっとぽんこつだな、と評した。
「きみは何に乗っているんだっけ、フランシス? ベントレーのオープンか?」
 グレイは首を振った。「ベントレーはガレージに入れてある。ふだんはレクサスを使っているよ」
 たしかに、彼は革張り内装のレクサスの大型に乗っている。リーバスはその価格の見当がつかなかった。
「近頃、そういう車にはどんな値段を吹っかけられるんだい?」リーバスは尋ねた。
「昔よりはやや高めになっている」という答えが返った。』
--COMMENT--
 リーバス警部シリーズ第13作は警察官再教育施設に送られたリーバスの覆面内部調査と、シボーンが担当する美術商殺害事件が重奏しながら進行する。一緒に再教育を受ける警部や刑事が5人もどん!と登場し、なかなかキャラクターが覚えられなかったり、両捜査が一向に捗らず400ページまでぐらいは、耐えに耐え読みこみ、終盤にくるとようやく息詰まるあっとする展開になり、ほっとします。ただし結果的には、二つの捜査対象があまりにぴったり嵌まりすぎて出来レースの感がある。
 引用は5人組と飲みに繰り出すシーン。レクサスは英国の顧客満足度調査でも7年連続の第1位となるなど人気ブランド高級車で、車種でいうとLSかGS辺りか? シボーンがようやく駐車スペースを見つけバックで入ろうとすると、すかさず別な車に突っ込まれてしまい、そのドライバーを脅す場面なんかも出てくる。 他に、エジンバラのギャングのフォード、タクシー会社女性経営者の"真っ赤なMGスポーツカー"、ダンディー署警部の家族のホンダ・アコードなど。
 リーバスはもちろん本シリーズの登場人物は始終パブ浸りだのだが、たまに出てくるソフトドリンクとししてアーンブルー IRN-BRU という得体のしれないものもある。<…なんと!スコットランドにはコーラよりも売れている飲み物がある。それが、アーン・ブルーだ。透き通ったオレンジ色をしており、駄菓子屋の粉ジュースの香りがする。味もそれに近い。のど越しはさわやかだが、あとを引く甘みが残る。オレンジに甘みと、トロピカルな風味を足したようなマンダリン味。炭酸は特に強いわけではない。ライトなど、何種類かある…> いちど味わってみたいものだ(^^;
Ref.Gamecat.com > 旅行記 (2011.10.23 #713)

血に問えばジャガーA Question of Blood (C)2004延原泰子訳 早川 2004

『「XJEなんて目じゃないですよ。ポルシェのどの車種だってジャガーよりはるかに勝れてる」
「でもジャガーのほうがかっこういいけどな、クラシックな感じがするし」ホーガンが反論したので、レイ・ダフは作業から顔を上げた。
「古臭いってことでしょう?」ダフは無数にある犯罪現場の写真を分類しては使える壁面すべてにそれを貼っている。−中略−
「おれは古典的なものが好きなんだよ」ホーガンが腕組して言い切り、これでレイ・ダフの能弁な議論にけりをつけようとした。
「じゃあ、挙げてみてくださいよ。イギリス車のベスト5を」
「おれはそれほど車マニアじゃないんだ、レイ」
「おれは自分のサーブが気に入っている」リーバスが言い添え、しかめっ面のホーガンにウィンクして見せた。
ダフは唸り声をだした。「スウェーデン車のことなんてぼくに言わせないでくださいよ…」
リーバスはもう一人のジャガー・ファン、ダグ・ブリムソンを思い出していた。』
--COMMENT--
 リーバス警部シリーズ第14作は、私立学校で乱射事件を起こし自殺した陸軍上がりの男の犯行動機捜査と、リーバスの部下シボーン(本作でぐっと接近中)をストーカーしていた男の不審死の事件が並行して語られる。SASを除隊してスムーズに社会復帰できない問題、私立校生徒らの親との断絶などが語られるものの、今ひとつ突込み不足のようで物足りなさが残る。
 引用は、科学捜査研究所の若手と、乱射事件捜査の主任ホーガン、リーバスとのまぁたわいない会話。この若手がコンピュータを使った事件現場解析に長けているので、二人の古顔も無理して話をあわせているシーンだ。また、本作で機械音痴だったリーバスもインターネットを扱えるようになって「覗きサイト」の話題など追求できる進歩を見せる。ほかに、以前の暴走事故のアウディTT、シボーンに気のある上述の若手のMG、上述ホーガンのパサート、また上記ダグのもう一台のおんぼろランド・ローヴァー、地方紙記者ホリーのアウディTTなどが登場する。 (2011.11.29 #719)

紐と十字架BMWKnots & Crosses (C)2005延原泰子訳 早川 2005

『マイケル・ローバスは命と同じぐらい、もしくは命よりも愛車のBMWを大切にしていた。高速道路を走るとき、左車線の車は停まっているも同然に思え、自分の車が生き物であるかのような、不思議ないとしさを覚えた。地平線の明るい一点へクルマの鼻先を向け、その未来を目指してもう猛然と加速し、どんな車にも道をゆずらずにひた走る。−中略−
 エジンバラでは、自分の車が注目を浴びるためには、どこに駐車するかによる。ある日、ジョージ・ストリートに駐車したところ、ロールス・ロイスがすうっと後ろにきて停まった。それで唾を吐かんばかりに憤慨しながら、エンジンを再びかけそこを離れた。しばらくしてディスコの前に停めた。レストランやディスコの前に高級車を停めておくと、その店のオーナーだと勘違いしてくれる者がいる。』
--COMMENT--
 リーバス警部の邦訳で最後に読むことになったシリーズの第1作。2011年中は12作読んだので、今年はランキンで随分と楽しませてもらった。邦訳刊行順でいうと10点目とだいぶ遅れて出版された訳で、読み応えという点ではやはり初期作品だね!という枠内。
 少女の連続絞殺事件を追うことになるが、リーバス(引用の人物は部長警部の弟)は広報担当の警部ジルといちゃついているだけで、捜査にあまり力が入っていないし、リーバスがターゲットだったのにそれを一切想起できなかったり…この作品を最初に読んだらあまり続けて読めなかったね。  引用は上述のとおり車好きのマジシャンの弟マイケルについて。あまり品行のよくない弟のせいか2作目以降ではまったく登場していなかったようだ。ほかの登場車は、目撃された被疑者の"青いフォード・エスコート"ぐらい。 (2011.12.22 #721)


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