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REED, PHILIP /フィリップ・リード

逃げるが勝ちマツラ・アクセルBird Dog, (C)1997三川基好訳 早川 1999

『ジョー・コヴォの運転するマツラ・アクセルに搭載した2.7リッターV6エンジンは、パロスヴァーデス・ヒルズに至るクレンショウ通りの上り坂を難なくこなした。二マイル半で海抜ゼロフィートから1500フィートまで登る道だ。右側車線を走るほかの車やトラックは音もなく背後に消え去っていき、ジョーはターボチャージャーが貪欲なエンジンにパワーを供給しているのを体で感じていた。それでもこの車にはまだ余裕があって、彼は胸がわくわくした。常に余力を残しておくという彼の人生哲学と相通ずるものがある。
 道は山腹をうねうねと続き、最後に頂上にむかう直線になっている。この直線にかかると、彼はいつもコロラドのパイクス山の頂上近くの道路を思い出した。そこのすべりやすいダートロードで、ジャガーの改造車を使ってレースをしたものだ。キャブレターをある高度−海抜一万五千フィートぐらい−に合わせて調整しておいて、ぶっ飛ばすのだ。ポルシェやMGに勝ったのはそのときだった。パワーでいい勝負だったのはコルヴェットだったが、あの豚どもは道路をまっすぐに走ることができなかった。』
--COMMENT--
 訳者である早大文学部の三川先生から、こんどのフィリップ・リードの処女作は車がたくさんでてきて楽しみですよ・・と知らせていただいていたとおり、ロサンゼルスの悪徳カーディーラーが舞台となったスピーディーでしゃれたクライムノヴェルでとても面白かった。あとがきでは「カー・ノワール」となっていたけど、大好きなエルモア・レナード風の騙しあい<トリックノヴェル>に近い。
 話は、"マツラ"(Mazdaのこと)を買うとき下取りに出したおんぼろエスコートを3000ドルも安く買いたたかれた女が、なんとしてでも契約を破棄してエスコートを取り戻そうとしたことで波紋が広がっていく。相談された中年男のほうが主人公だが、こっちの女性のほうが魅力的なキャラクターに描かれている。会話も下品だがユーモアたっぷりで楽しいし、LAの雰囲気もよく伝わってくる。
上記は、ディーラーのオーナーのドライブシーン。主人公の化学エンジニアがGMCのピックアップ・トラックC2500、やり手セールスはメルセデス560SEL、ディストリビューター役員がマクサス・クーペLS(トヨタLexusでしょうね)、殺し屋のレンタカーのシボレー・コルシカ・・が登場する。トヨタ、ホンダ、スバルなど実名で書かれているところと、"マツラ""マクサス"など変えてある部分とがあるのが不思議だった。原題の「バードドッグ」は、客を追い立ててディーラに連れ込んでくる役のことを指すそう。(1999.10.30)。


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