STELLA RIMINGTON ／ステラ・リミントン
| リスクファクター | MGB | At Risk (C)2004 | 田辺千幸訳 ﾗﾝﾀﾞﾑﾊｳｽ講談社 2007 |
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『ジーン・ドービニーはあたりに人気がなくなるのを待って、駐車場の隅にある女性用トイレから出てくると、周囲に目をやった。幸いなことに、雨はまだ降り続いている。駐車場にたむろしている人間はいない。最適というわけではないにせよ、一番盗むのが簡単なのは緑色の古いスポーツカー、MGBだろうと彼女は判断した。四半世紀くらい前の車だろうが、観賞用に飾られていたわけではないらしく、かなりよく手入れされているようだ。一番の利点は、古い車にはハンドルロックがついていないことだ。ハンドルロックの外し方は知っていたが――ハンドルの支柱の下に棒を固定しておいて、下向きに力を加えればたいてい巧くいく――人目につかにように作業するのは難しかった。
ジーンは心を決めるとMGBに近づいて、雨にぬれたビニールの幌を折りたたみナイフでたくみに切り裂き、手を突っ込んで鍵を外すと、運転席にすべりこんだ。助手席に男物のシープスキンのジャケットが置いてあったので、それでぬれた膝を覆った。ブーツをはいた足を胸元にひきつけ、ハンドル下のカバーを蹴る。古いプラスチックだったので、半分が裂け金属製の白いイグニッション・バレルがあらわになった。』
--COMMENT--
英国内務省情報局MI5の女性初の長官となった著者の話題の処女作。テロ対策や捜査についての手順などディテールがきちっと書き込まれているし、最後まで明らかにならない男女のテロリストの攻撃目標を必死で追求する部分が見せ場になって、思わず引き込まれるストーリーは素晴らしい。
テロリストがイギリスに入国して最初に使うのがレンタカーのボクソール・アトラス1.4LS、次に引用に出てくるMGBを奪い、さらに別のセダンに乗り換える…を含めて登場させる車がとても多い。ほかに、MI5情報員管理官リズ（主人公）の"中古の濃紺のアウディ・クワトロ"、MI6捜査官の"シルバーのBMW"、バンガロー・オーナーのチェロキーなど。(2007.9.10 #506)
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