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RIPLEY, MIKE /マイク・リプリー

名ばかりの天使フォード・トランジットほかJUST ANOTHER ANGEL, (c)1988早川書房,1991

『近ごろの学生はいかなる車に乗っているのか? わが大学時代にはタクシーかワーゲンのビートルか旧型のエスコートだったし、オーストリア人はワーゲンのドーモービルと決まっていた。(それは国へ戻るための飛行機代を手にいれようとしている若いオーストラリア人によって競売にかけられているため、今でもビクトリア駅から離れた曲がり角の駐車場で安く手にはいる)。
 わたしの推測では、最近の学生は猫も杓子もゴルフだとか、タークインやペトラなどと自分の名前を入れたグリーンのバイザーをフロント・ウインドーに張り付けたサーブに乗っているはずだ。
 わたしは車を決めるににあたって、便利さと目立たなさという二点に重きをおいた。今必要なのは、いささかくたびれたフォード・トランジットのヴァンのようなもの。それがどこで借りられるか、ちゃんと心当たりがあった。』
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ロンドンの下町で、日本風にいえばフリーターのトランペット・プレイヤーのエンジェルが活躍するユーモア・ミステリの第一作目。
 彼の愛車アームストロング(タクシーキャブでジャズ好みの主人公がつけた車の名前)に乗り込んできた女からの頼まれ事から、女の夫につけ狙われる窮地にたつというストーリー。
 上記は、学生をさがしに大学に潜入するとき使う車を選ぶシーンであり、他にも”6年前のヒルマン・アヴェンジャー”、”旧式のフィアット500”、エンジェルの車を見て驚かれたので彼が答える「ポルシェのほうは、灰皿を掃除にだしているんでね」とか、前述のトランジットは「ナンバープレートがドイツのものだし、車体の左側にはどでかいへこみがつき、窓ガラスには<捕鯨、断固反対>のステッカー、バンパーには<原発もうけっこう>のステッカーが貼られ、どこもかしこも茶色と紫の色でまがまがしく飾りたててあった」とまさしく学生の車にしか見えないいでたちなどユーモアたっぷりに語られる。(96/05)

天使の火遊びオースティンFX4SタクシーほかANGEL TOUCH, (c)1989早川書房,1992

『わたしはタクシーを運転し、そのためイヤな目に会うことも多い。だが本物のタクシー・ドライバーではないし、講習を受けたこともない。他人がフォルクス・ワーゲン・ゴルフ2.2とか、オンボロのコルティナに乗っていたり、BMWを買えない荒くれがエスコートXRiに乗っているのと同じ理由で、営業無許可の黒のロンドン・タクシーに乗っているだけのことだ。ちなみに、タクシーの名はアームストロング。ところで、おたきの車はなんてよんでる?
  だが、まじめな話、ほかにロンドンでどんな車に乗ったらいいのか?盗まれたり、違反チケットをきられたり、バスにぶつけられたりする心配のない車が他にあるだろうか。燃料がディーゼルで、メーターが二巡しているのにいい走りをして、車検でもトラブルなし、オックスフォード・ストリートを走ってもおまわりにしょっぴかれずにすむ、そんな車がどこにある。フォードをありがたがっている人間がいまだに多いのは驚きだ。
 お察しのとおり、オオカミ男は他人の車の後ろに座ってあれこれ指図するのが好きだ。おまけに彼は道ゆく人々に手を振る。いずれ、ひとこと注意せねばならない。  いろいろ考え、我々は騒ぐのをできるだけ控え、ガーデンに向かった。駐める前にまず、アームストロングの向きを変えた。そうそう、ロンドンで警笛を鳴らされずに車の向きを百八十度変えられるのも、タクシーならではの特徴だ。』
--COMMENT--
前作「名ばかりの天使」につづく、定職のないなんでも屋のトランペッター、エンジェルが活躍するユーモア・ミステリー。ジョークの連発とウィットあふれる会話は相当なもの。しかも、車好きで、引用した”アームストロング”オースティンFX4Sの他に、BMWピンクの64年型ゼファー、シトロエンAX,ショーグン、真っ赤なポルシェなどたっぷり登場する。リプリー自身は、シトロエンBXとマツダ323 に乗っているそう。 (96/04)

天使に銃は似合わないフォード・ゼファーほかANGELS IN ARMS, (c)1991早川書房,1995

『「リッチーはトルコ人だ。一族が経営するレストランの上の階に住んでいる。ワオッ! 爪が痛いぞ、ベイビー・・」
「誰が運転してるんだ?」
ロイドの車はその日の気分で色を変えられる毛皮のシートがついた、特注のオールドモデルのフォード・ゼファーだ。きょうびのスタンダード・ポルシェについている豪華なな備品がほとんど揃っているが、自動運転装置まではなかったはずだ。
「まさか、デニソン・ブラザースのひとりに運転させてるのさ。わたしは新任の個人秘書と協議中でね。いや、じっさいずいぶん有能な秘書なんだ」
「よろしくやってくれ。リッチーにあんたの名前をいってもさしつかえないだろうか」 「いいとも。わたしの名前をだせば箔がつく。だがレバー料理だけは死んでも食うな」』
--COMMENT--
つづいてリプリーのエンジェル・シリーズ第3作。麻薬取引に巻き込まれたエンジェルの親友を仲間と救出する・・・相変わらずユーモアだらけの、いや、各頁に必ずにんまりさせる箇所があるんですね。
 上の引用は、彼が芸能マネージャーのロイドの車に電話をかけている場面。 この作品でも車の類がたくさん登場してくる。エンジェルの65歳の叔母が乗っているBMW 750CCバイク、友達から借りるのがコルチナ・エステート、助け人が使うメルセデスの四駆、ほかにルノー25ディーゼル、旧型のシトロエン2CVバン、カナリア色のルノー4など、よほど車好きな作者であります。(96/05)


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