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Robinson, Peter /ピーター・ロビンスン

渇いた季節キャヴァリエIn a Dry Season, (C)1999野の水生訳 講談社 2004

『バンクスとアニーは、ミルガース署に立ち寄ったあと、車(編者注、別ページにキャヴァリエと出てくる)で住宅団地へ向かった。どうしていつも、自分で運転したがるの? アニーに訊かれてバンクスは答に窮した。首席警部ともなれば、運転手つきは特典だ。が、利用したことは一度もない。ひとつには、署の車を借り出すより自分の車を使ったほうが気楽だというのがある。灰皿を埋める誰かさんの吸殻だの、チョコレートの包み紙だの、使用済みのティッシュだの、その他、床に散らばる何やかにや、いちいち苛立ちたくはない。いや、主な理由はほかにある。自分で車を操りたい。自分の足でペダルを踏み、自分の手でハンドルを執る、そうでなければ気がすまない。
 音楽もだ。いつも自分で選びたい。サンドラはそれに腹を立てていた。…中略…
 バンクスは、ブラムリー・タウン・エンドのすぐ傍の、大通りからやや引っ込んだ商店街の真ん中に車を停めた。そして、グウェン、マシューのシャクルトン兄妹が住んでいた通りのほうへ、アニーとぶらぶら丘を下った。二人とも普段着に近い服装だ。おまわりのは見えない。』
--COMMENT--
 初見となる作者のアラン・バンクス首席警部シリーズ第10作。ヨークシャーの片田舎の貯水池が干上がり、湖底の沈んでいた納屋から人骨が発見され、バンクスと部長刑事のアニーが捜査を始める。
 二次大戦のころのイギリスの田舎の生活ぶりなど克明な描写、しっとりとしたストーリー、隙のないプロットなど、さすが安心して読める作品。最近よく読んでいるデボラ・クロンビーの警察ミステリと構成が酷似しています。ちょいと無骨な警察官の主人公、一緒に捜査することになる女性警部との恋、昔の出来事にターンバックする事件の核心、現在の進行に過去のモノローグが交錯する…などなど。そう、クロンビーはアメリカ人だし、ロビンソンはカナダに移住してから作家になって英国を舞台にするミステリを書いて、両者とも英国にいない点でも妙に一致している。
 登場車は、抜き書きの主人公のキャヴァリエ、人気ミステリ作家の真っ赤なトライアンフ、女性警部の"メタリックな紫色のアトラス"、村の警官のレンジ・ローヴァー、事件の起きた家族の昔の車"モーリスの小型ヴァン"など、代表的な英国車がラインアップ。(2008.11.14 #571)


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