lagoon symbol
S.J.Rozan /S.J.ローザン

冬そして夜カローラWinter and Night (C)2002直良和美訳 創元 2008

『「ぼくのことはどうやって?」
「トレバーに訊いたんです」彼女はわたしのきょとんとした顔を見て説明を加えた。「私道で野次馬を追い払っていた警官。彼は前にわたしの姉と付き合っていたの」
「ではここは?」
「あとを尾けたんです。トレバーは記者会見のことは教えてくれたけど、ウェズリー家にはぜったい近寄らせてくれないもの。わたしが記者だと知っているのに、いつもこんな調子。“おいおい、任務だからしょうがないだろう”」最後のところは、胴間声の警官を真似して言った。
「そこで、帰っていくあなたを尾行したんです。ジリス・ストリートで車を停めて電話をしていたでしょう。あのあたりはどこも一方通行だから、あなたの車を追い越してリンデンの角で待っていたの」
わたしはターキーサンドイッチを頬張り、静かな街路と庭師を思い返した。「グリーンのカローラ?」
「正解」
「してやられたな、どうやって嗅ぎつけたんだい?」
「車に警察無線傍受用の受信機を積んでいるんです」四分の一ほど減ったコーヒーに、ミルクをなみなにと注ぎ砂糖も加える。…』
--COMMENT--
 中国系のリディア、アイルランド系のビルの私立探偵コンビ・シリーズ8作目。本書は主にビルが主役をつとめていて、ニュージャージーの町の高校アメフト部にまつわる事件を追う。町をあげてアメフトに肩入れし、その部員やコーチが横暴をはたらく…という異常ともいえる地方都市社会の問題を扱っていて、その点で、本書が2003年MWA最優秀長編賞を受賞したのかしら? ただし、ストーリーのスピード感不足とか登場人物への思い入れがわかず当方にとってはいまいちであった。
 抜き書きは、ハイスクールの学生新聞記者の女の子がビルから情報を引き出そうと言い寄ってきたシーン。この女子学生がたいへん生き生きと描かれていて実質主人公といえるほど。トヨタ・カローラなんかが登場するのはとても久しぶり。ビルのグレーのアキュラ、ビルの妹の"ワレンズタウン・ウォリアーズのステッカーを貼ったシェヴィー・ブレイザー"、らんちきパーティーで死んだ女子高生の"16歳の誕生日プレゼントだったトヨタRAV4"、地元の有力者で弁護士のメルセデスSUV、同僚リディアのトーラスなどが登場する。
p.s. 高校での格好いいから格好悪いグループについての順位が面白かった。…格好の悪いほうのからの順で、変人[Freaks] とヤク中[Junkie]が一番下、それから頭でっかち[Brainiaxe]、オタク[Geeks]、そしてゲージツ系[Artsy]とエコマニア[Tree Huggers]、次がカウボーイ、ベストが運動部員[Joggs]となる。
(2009.1.24 #579)


作家著作リストR Lagoon top copyright inserted by FC2 system