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RUELL, PATRICK /パトリック・ルエル

眠りネズミは死んだフォード・シェラDEATH OF A DORMOUSE, (c)1987早川書房,1988

『昼食がすむとデイカが聞いた。「お急ぎですか?」
「いえ、とくに」
「では散歩をしませんか?建物の中でも、戸外でも。どちらのコースも用意できますよ」「準備がいいこと。喜んで」
 彼は近くに止めた車のところまで彼女を案内した。ジャンに質問されることを予想して、トゥルーディは注意深く車を観察した。グレーのフォード・シェラで、一年ほど前の型だった。GBのナンバープレートをつけ、走行距離は2万マイル。 デイカはきびきびした丁寧な運転で、すぐ近くにある大きな公園まで車を走らせた。掲示板によれば、中には市の美術館と博物館があるらしい。
 まず最初に公園の中を歩くことにした。デイカはクリーヴランド丘陵の小さな農園地帯での生い立ちを語った。ようやく話し終えると、トゥルーディの話しを促すように黙り込んだ。「たいして話すことはないんです」トゥルーディは言った。』
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しっとりとして落ちつきのある英国伝統のサスペンス・ロマン。
タイトルの「眠りネズミ」のような安寧な生活をしてきた主婦トゥルーディは、夫の死をきっかけに奇妙な遺産をめぐる巧妙な組織犯罪の渦に巻き込まれる。
 上記は、お見合い斡旋クラブで出会った実直そうなデイカの車、夫の前の女友達が赤のフィアット・パンダ、トゥルーディの友人がグリーンのフォード・エスコートなど登場人物のキャラクターにあわせた車が書き込まれている。(96/04)

ただ一度の挑戦メトロ、ヴォクゾールTHE ONLY GAME, (c)1991早川書房,1994

『テニスシューズはぴったりとフィットし、快活で活動的な気分にさせてくれた。次に、黒い塗料の小さなエアゾール缶を袋から取り出した。ラベルには、ほとんどのフォード・モデルの引っかき傷にびったりです、と保証してあった。公安部の車はヴォクゾールだしブルーだったが、この場合、それはあまり問題ではなかった。  汚い白のメトロが現れ、すばやくモーテルの駐車場に曲がりこんできた。ドッグは運転手のまばゆい赤い髪を見てとって、気分が高揚するのを感じた。やおら、早足に歩きだした。  公安部の監視者たちもメトロを見つけ、エンジンをかけたところだった。ドッグはさりげなく車を通りすぎつつ、トビー・テンチの驚愕した視線を受けとめると、フロントガラスに黒い樹脂塗料をたっぷりと吹き付けた。  それから、ブレーキを踏む車の間をすりぬけ、けたたましい警笛の音や、運転者の罵倒をあとにして、車道を敏捷に横断した。ジェーンが駐車スペースにどうにか車を収めようとしていると、ドアが開き、ドッグが隣に乗り込んできた。』
--COMMENT--
お正月前後は、毎年末にでる宝島『このミステリーがすごい!』をみて、面白そうな未読作品を集中して読むのにとても忙しく、また楽しい。このルエルの作品は、海外ミステリー・ベスト10のうち9位になったもの。英国エセックスのロムチャーチ警察のドッグ・シセロ警部がIRAに誘拐された子供を、たった一人でひつように捜し求める。引用した部分は、子供の母親ジェーンを追う公安部のチームをドッグが妨害するシーン。ヴォクゾールやメトロなど、イギリス車がたっぷり出てきます。 レジナルド・ヒルがパトリック・ルエル名義で発表した邦訳作品の『長く孤独な狙撃』、『眠りネズミは死んだ』につづく第3作目。(96/01)


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