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SANDFORD, JOHN /ジョン・サンドフォード

沈黙の獲物トヨタ、マツダ・ナヴァホSILENT PREY, (c)1992早川,1996

『歩道の端で足を止めたデブは踵に体重をのせてからだを揺らし、信号が変わるのを待っていた。ヤセが投げ捨てたタバコが通りにあたり、小さな火花を散らした。激流のように車が走っていく。でこぼこになったトヨタ、ごとごとと音をたてるフォード、フェンダーの曲がったダッジ・ピックアップ、前方の視界を遮るヴァン、いたずらがきだらけのトラック、有害なディーゼルの排気ガスをまきちらすバス。どれもが産卵のため川をのぼる鋼鉄のサケのようだ。タクシーはいい位置を確保しようとホーンを鳴らして進路変更をしていく。通りの横糸にからむ黄色い縦糸だ。ニューヨークは騒音にみちている。地下鉄の轟音、スティームのパイプ、ギアの音、壊れたマフラー、百万の人々が一度に話す声、そして頭上で唸りをあげる無数のエア・コンディショナー。』
『二人は河に近い倉庫街を抜け、三十分かけて日暮れの街を横切った。やがてフェルがスピードを落としてUターンをし、歩道に右のタイヤを乗り上げて停まった。エンジンをきるとバックシートのラジカセを床に置き、シートの下からボール紙を出して、ダッシュボードの上にのせた。そこには、「ラジオはありません」と書かれていた。
「警官の車なのに?」
「警官の車だからこそよ。警官の車にはいろいろな装備があるから。少なくともそう思われているは」』
『ケネットは二重駐車したマツダ・ナヴァホの助手席で待っていた。ラフな古いカーキ色のパンツにソーホー・サープラスのTシャツという恰好だ。
「いい車だな」バックシートに乗り込みながらルーカスはリリーに言った。
「ケネットの車よ。四駆はテストステロンの分泌を促すんですって」こういってリリーは運転席へまわって乗り込んだ。
「四駆なら、あなただってもっているじゃない」
「こんないい車じゃない。こいつはマンハッタンに似合う四駆だからな」ルーカスが冗談半分に言い、ケネットにはこう言った。「あんたが運転するとは思いませんでしたよ」』
ひねりの効いたストーリー!!(96/10)


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