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Frank Schatzing /フランク・シェッツィング

深海のYrrランドクルーザーDer Schwarm (C)2004北川和代訳 早川 2008

『町の中心に向かって少し歩き桟橋のほうへ曲がる。桟橋には、老朽化した長さ12メートルのヨットが係留されていた。それは、もう一人の経営者ディヴィーの船だが、アナワクにわずかな家賃で貸している。彼にはバンクーバーに狭い自宅アパートがあるが、ほとんど帰らない。
 甲板の下にあるキャビンから資料を持ち出すと、<ディヴィーズ>に戻った。バンクーバーには錆びついたフォードを置いてあるが、ここでは、シューメーカーの古いランドクルーザーを借りればこと足りる。その車に乗りこんでエンジンをかけ、<ウィカニニシュ・イン>に向かった。数キロメートル離れた岬に立つ最高級ホテルで、太平洋を見わたす眺望が素晴らしい。十分後、車を小さな駐車場に停め、朽ちた倒木のそばを歩いた。小路は夕闇に広がる深緑の中につながる。湿けった大地の匂い。どこかで滴る水の音。樅の木の枝には苔が生え、シダがぶら下がっている。あたりは生気に満ちていた。』
--COMMENT--
 ペルー、バンクーバー、ノルウェーなどで急に起こる海洋生物の異常な行動を研究者たちが追う。"ドイツのマイクル・クライトン"と呼ばれるそうだが、最新の科学技術と環境問題を徹底的に取り込んだクライトン風SF。3冊から訳本はざっと1500ページを越え、この"力作"を読みこなすには相当な気力が必要(残念ながら当方はギブアップ!!)。ドイツ国内では『ダ・ヴィンチ・コード』と競うほどのベストセラーだったようで、ドイツには忍耐力のある読者が多いんですね。
 抜き書きは、ホエール・ウォッチング・ガイドを兼ねるクジラの研究者アナワクのバンクーバー島でのシーン。海洋が主題なので、種々の船やゾディアックは多く登場するがクルマは少ない。(2008.8.6 #558)

グルメ警部キュッパージャガーMORDSHUNGER (C)2006熊河浩訳 ランダムハウス講談社 2008

『その頃、キュッパーはケルンで一番素敵なバー、<ローゼブート>で見知らぬ人達と楽しく酒を飲んで、家路につくところだった。夜の苦い思い出は甘いカイピリーニャですっかり洗い流されて、気分は上々だ。スーツの胸ポケットはメモに使ったコースターでぱんぱんにふくらんでいる。なんと、修理して新品同様になったジャガーを3000マルクで譲ってもらえることになったのだ。それも、土曜日の朝9時半にフレットという人のところに行くだけでいい。
 キュッパーは中背の男の姿をぼんやりと思い出した。彼はご機嫌な女性を何人も周りにはべらせ、キュッパーにオールドタイマーのことを滔々と話して聞かせた。…中略…
彼は新しい車で何をしようかといろいろ考えながら、数年ぶりにどたどたと自分の家に入った。留守番電話のランプが盛んにウィンクしていた。』
--COMMENT--
 SFサスペンスの『深海のYrr』からまるで作風が異なる、ケルン警察キュッパー警部のユーモア・ミステリ。部下の刑事や法医学研究所のおかしな医師とのやりなどけっさくではあるが、最後まで主人公の人物像が掴めなかった。まぁシェッツィングが楽しみながら書いたのだろ。ケルンを舞台にした数少ない作品の一つというのが私にとっての摂り得。
 車については残念ながら、ほとんど記述はなく引用の部分ぐらい。ただ、何でジャガーを入手することになったかの伏線は一切ないし、受領する土曜日に何か事件解明につながる出来事があるわけでもない…と悉くアソビというか、プロットが見えない。まぁ細かい点を詮索してもしょうがないか。
p.s. 主人公はいくら飲んでも翌日にはケロリとしている“特技”があるのだが、友人たちが言うことには「あいつは日本人になったんだよ。日本人が毎晩あんなに接待で飲んでもGNPが落ちないのは酵素がとてつもなく多いからに違いない」…ビール好きのドイツ人以上にもそんな風に思われているもんですかね? (2009.4.26 #591)


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