SEYMOUR, GERALD /ジェラルド・シーモア
生還の代償 | スズキジープほか | HOME RUN , (c)1989 | 新潮,1991 |
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『憲兵隊の伍長がパークに通れと合図した。敬礼はなかった。フォード・エスコートに乗った彼が、自宅でゆっくりする筈の日曜日を台無しにされた伍長から敬礼を期待する訳にはいかなかった。
パークは穴ぼこだらけのダート道を走らせ、やがてスズキのジープのとなりに駐車した。そのジープの向こうには、新しいナンバー・プレートをつけた黒いローヴァーがあって、運転手が黙々と車を磨いていた。
彼はチャーリー・エシュラクのほうへ歩いていった。エシュラクは、セチュリー・ハウスでパークに説教をした、あの気取ったしゃべり方をする横柄な男と並んで立っていた。』
--COMMENT--
センチュリー・ハウスといえば、イギリス秘密情報局の別称であり、ここと中東を舞台に繰り広げられる大がかりな追跡と、主人公達のいずれもハッピーエンドにならない結果が壮絶である。
スズキのジープ(ジムニー)は、イランで破壊工作の罪で死刑になった姉の復讐に燃えるイラン人青年エシュラクの車。エスコートは麻薬捜査員パークの車である。そして、イランに拉致された秘密情報局のイランデスク、この3人の動きの絡み合いでストーリーが展開していき、誰もが勝者にならないゴールを迎える。
シーモアの語り口は、非情なスパイ戦を扱ってはいるが常に登場者の人間性に暖かい目を向けており、叙情的とも言える文章がなかなかの魅力である。(91/12)
密告者 | スバル・ピックアップ | THE JOURNEYMAN TAILOR, (c)1993 | 福武書店,1994 |
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『キャシーがすこし離れてブレンを見る。「そんなにくちばしが黄色くちゃ、遠くからでも、くわえている煙草を撃ち落とせるわよ。まったくもう!」顔に笑みを取り戻して、ブレンの頭に手を伸ばし、きれいに分けられた髪をくしゃくしゃにした。キャシーはけさ初めて、ブレンをランニングに連れ出さなかった。ここ何日間か、徹夜続きで寝ていない様子だった。ぼうっとした頭に活を入れるかのように、キャシーが唇を噛みしめるのが、ブレンの目に映った。
フラットの外には、スバルのピックアップが駐車してあった。汚れがひどい。うしろの荷台に干し草が二梱、ロープでゆるめに縛り付けられている。
「で、これは、何なんだ?地方色をだそうって趣向か?」
キャシーはブレンに運転してくれと言った。ピックアップの鍵をあけて、グローブボックスのブローニングと弾倉をブレンに渡し、アノラックの内側にしまっておけと命じる。それから地図を見せて、行き先を教えた。
ベルファストの市外へ出たとき、キャシーはもう眠りに落ちていた。』
--COMMENT--
"ベルファスト…"とくればおわかりのように、北アイルランドIRA暫定派テロリストものであるが、ひさかたぶりに、十分なスリルを感じさせてくれた作品だ。テロリストとその家族、支援グループ、密告者、英国情報部の非情なスタッフたちなど、登場人物がリアルに描かれており、まさに結末のない戦いが息をもつけずに進行していく。シーモアはたいへん力のある作家ですね。
IRA組織内の密告者との連絡役が上にでてくる情報部のキャシーとブレンであり、初めて密告者とコンタクトしに行くシーン。スバルがでてくるが、ピックアップ・トラックは日本国内では出荷されていないモデルである。(95/01)
囮(おとり) | フィアット127 | Killing Ground, (C)1997 | 長野きよみ訳 講談社 2001 |
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『フランコが運転した。車は古いフィアット127で、もう製造されていない型だ。車体は錆びており、エンジン周りの油と埃は警察の抜き打ち検査に備えてそのままにしてあるものの、エンジンそのものは見事に整備されていて、時速170キロまで速度をあげる性能があった。それは目立たない年老いた司祭を田舎の村から、喪に服す家に運ぶのに適切な車だった。成り行き任せのことは何もなく、全てが注意深く準備され、目立たない年老いた司祭の移動はフランコの責任だった。
フランコの膝先の計器盤に組み込まれたラジオは、音楽やRAI局のトーク番組をかけずに、UHF周波数の端末にあわせて、先行している車二台からの軍による道路封鎖の警告と、後続車から警察の尾行の疑いがありそうな場合に警告を受けられるようにしていた。
太陽は西の山のむこうに沈んだ。カターニャの街の灯りが薄暮とともにあらわれた。』
--COMMENT--
世界中の麻薬取締組織が懸命に追うが捕捉できなかったシチリア・マフィアのドンに接近する切り札として、英国の地方の村の女性教師が危険な潜入をする。マフィアの内幕、抗争が克明に描かれていて興味深いし、マフィア追撃の担当判事を守る憲兵隊チームの描写もリアリティがあって迫力たっぷりの場面展開が楽しめる。
引用部分は、そのドンが知人の葬儀に向かうシーン。シチリアには2005年に旅行に行っていて、パレルモ、モンデッロ、モンレアーレなど親しみある街が舞台となっていた。(2007.12.27 #526)
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