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TAPPLY, WILLIAM G./ウイリアム G.タプリー

チャリティ岬に死すBMWDEATH AT CHARITY'S POINT, (c)1984サンケイ,1986

『「君ら、歴史の宿題でもしにいったらどうだ」と、私は言った。
「歴史なんて嘘ぱちだ」つるつるがいった。「大事なのは未来さ」
  ジョージ・グレシャムだったら、このファナチックな少年になんと言っただろうか。ともかく、私の頭に浮かんだことよりは理性的なことを言っただろう。
 わたしは肩でおしのけるようにしてから少年達の間を通り抜けて、白のBMWに乗り込んだ。
 駐車場から出るとき見ると、彼らは一様に苦々しい顔をゆがめて私を見つめていた。一瞬、テレビのフラッシュ・バックみたいに、カリフォルニア大学バークレー、シカゴ大学、ケント・ステイト大学の光景が頭の中に浮かび、「われわれ国民の未来は若者にある」という文句がのどもとまでこみ上げてきたが、口に出していおうとする衝動を押し殺した。
 「我々の考えに賛成しないなら、あんたは我々の敵だ」バックで駐車場から出ようとすると、少年達の一人が叫んだ。
 「神よ、言論の自由を守りたまえ」私は車を走らせながら、呟いた。』
--COMMENT--
1970年代の後半、ボストンの私立高校の校庭でのやりとりですが、上のセンテンスから白のBMWはどんなオーナーの車でしょうか? この私立高校の先生の死が自殺か事故か調査を依頼された弁護士、それも金持ち階級のお抱え弁護士で、ボストンで幅をきかすハーバード出ではなくエールのロー・スクール出のいっぴき狼とくれば、なんともピッタリの設定なんですね。
 ベトナム戦争後の後遺症の中で、極右の愛国グループの若者達を交えて展開する社会派ともいえるタプリーの処女ハードボイルド作品。(92/1)


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