Thayer, James／ジェイムズ・セイヤー

悪夢の帆走フェラーリ、メルセデス560SL FORCE 12 (C)2001 安原和見訳新潮 2005: 『＜ワールドクエスト＞は毎月のように重要な社員を失っている。早い時期にワイマンとオデルの仲間に加わったエンジニアやプログラマーが、報酬の一部として＜ワールドクエスト＞のストックオプションを与えられて、35歳や40歳で燃え尽きて退職し、あとは死ぬまでクラシックカーの修理をしようとか、砂丘でのんびり過ごそうと決めてしまうからだ。
　グエンも辞めようかと考えたことがある。この太平洋冬期レースが終わって、レックスが望みどおり実力を世界に証明したあとなら、辞めてもいいのではないだろうか。＜ワールドクエスト＞に入ってもう9年になる。早くから加わった社員の一人として、彼女もストックオプションを与えられている。
　個室をもらっているほどの幹部社員はみな、今日必死で働けば、会社の株価が今日のうちにその分高くなると無条件に信じていた。だれもがモニターの前に釘付けになり、シュリンクラップ・サンドイッチの昼食をデスクでとり、夜の9時や10時まで働いて、フェラーリ・テスタロッサやメルセデス560SLを飛ばして自宅に戻る。どうかしている、と誰もが最初からわかっていた。』
--COMMENT--
　真冬のベーリング海を横断するヨットレース（それも自ら主催する）に完全コンピュータ制御の船で挑戦するという、ちょいと荒唐無稽というかムチャなストーリーではあるが、最近では珍しい海洋冒険ものだし、そのコンピュータが何者かによってハッキングされるという適度なミステリーも織り込まれている。
　コンピュータ・ソフトのヴェンチャーからITのトップ企業になった幹部社員の車としては、テスタロッサとか560SLは、一頃前という感がしないでもない。《つつまし屋》と噂されている主人公グエンの車は、"不恰好なホンダ・アコード"だ。ほかにハッカーの"あざやかな黄色のポルシェ・ボクスター"も登場する。
　原題の"FORCE 12"が気になったが、見落としたかも知れないが本文中には見つけられなかった。そのまま検索して出てくるのは、アマチュア無線アンテナの米国メーカー名だった（日本のハム愛好家にも人気のようだ）。どうも違うようでさらに調べると、英国に本拠をおいて活動する外洋ヨットレースのチーム名 http://www.force12.org.uk/ がヒットしてきてどうやらこちらを指しているようだ。
　さらに本文によく出てくる会社の所在地が《ボイジー》となっていて、これもどこのことやら??でした。《マイクロン・テクノロジーとヒューレット・パッカードが、アイダホ州都ボイジーを拠点とする…》だそうで今や全米きっての《ハイテクの町》だそう。シツレイしました。ボイジーってどんなところ?。(2005.9.24 #372)

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