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THOMPSON, STEVEN L./S.L.トンプソン

A−10奪還チーム出動せよフォード・フェアモントRecovery, (c)1980新潮,1982

『マックスはゆっくりと自分の車に歩み寄った。小さなロータスヨーロッパはうっすらと夜露をかぶり、オレンジ色の街灯の光をあびて、クロームイェロウのボディがつややかに輝いている。ロータスがそれほど美しく見えるのは初めてだった。彼は車のドアの鍵穴にキーを差し込んだ。そのとき、横っつらをいきなり張られたように、愕然とした思いにとらわれた。さっきの決断によって、自分はまったく新しい人生に一歩踏み込んだのだ。』・・・・・・・
 『ウィルソンはうなずいて、新車同様のフォードフェアモント4ドアセダンのエンジンルームを覗き込んだ。マックスも隣にたって覗き込んだ。エンジンをひと目見て、彼は思わず息を飲み込んだ。レーシングドライバーとして活躍していた最中にも、これほど見事に手を加えられたエンジンは見たことがなかった。オリジナルの5000CC V8エンジンには、奪還チームのメカニックたちの手で入念なチューンが施されていた。ピストンの軽量化とバランス調整に加えてポート研磨が施されていたし、カムシャフトとイグニション装置はまったくの新品と交換されていた。おまけにエアリサーチ社製のターボチャージャーが付加された結果、ターボの最大加給時には5百馬力の最高出力を発生するという。これはもうオリジナルのエンジンとはまったく別物のモンスターエンジンといって良かろう。』
--COMMENT--
 欧米の冒険小説では、クルマが多く登場するが、トンプソンの作品ほど主役になっているものは見あたらない。それもそのはずであり、トンプソンは、レーシングドライバー出身であり、「オートウイーク」、「ロードテスト」、「カー・アンド・ドライバー」など一流の自動車誌の編集者を歴任してきている。
 ストーリーは、主人公のマックス・モスが東ドイツのポツダムを基地として、不時着する西側パイロットを救出するカーチェイスからなっており、アメリカ軍事連絡部の奪還チームの車として、フォード・フェアモントとチェロキーが存分に登場する。東ドイツ人民警察のBMWやソ連軍諜報部の武装ヘリに追われ、幾多の道路封鎖線を突破して暗闇の山道をフルパワーで疾走するアクションアドヴェンチャーは、まさに手に汗握るものがある。(90/09)

上空からの脅迫コーヴェット、トヨタ、ポルシェ944ターボAIR BURST, (c)1988新潮,1992

『「コーヴェット? これがあなたの車なの?」
マックス・モスはつい笑みをもらしていた.「そうなんだ.気に入ったかい?」彼女はドアをあけ、幾分ぎこちない動作で中に乗り込んだ.この車はドアの敷居が高い.スカートをはいた女性が乗り込むのはかなり面倒なのだ.案外、この車は意図的にそうデザインされているのではないか、とマックスは思うことがある.つまり、女性にハンデを与えるために、だ.コーヴェットのデザイナー達は、そういう形で、これは男の車ですよ、と購入希望者たちにそれとなく示唆しようとしたのかも知れない.もちろん、それとはまったく別の可能性もある.要するに、GMの連中はここでもまた人間工学上の設計ミスを犯した、と言う線だ.』
『「戦車が待ってるぜ、おめえを」 小男を無視して鍵を拾い上げたハジ・アル・シランは、自分のバッグを手に、納屋の暗い一隅に歩み寄った.そこには中古のトヨタのボディが鈍い光を放っていた.背後で、小男がリヴォルヴァーの引き金をいじくる気配がする.車のトランクをあけて、荷物を放り込む.目立たないリーボックのスポーツバッグが中に入っていた.トランクの蓋をばしんと閉めて運転席に滑り込んだ.外観は地味だが、このトヨタも歴戦の強者ではあるらしい.よく使い込まれたレンタカー特有の、すえたような臭いが車内に染み込んでいる.エンジンは、鍵を一ひねりしただけで掛かった.これなら申し分ない.なんの不平も言わずに走ってくれるだろう.ギアをロウにいれると、ハジ・アル・シランはゆっくりと戸口にむかって走りだした.』
--COMMENT--
トンプスンは、東西冷戦ドイツをチューンアップしたチェロキーやフォード・フェアモントで走りまわる奪還チームものでデビューしたが、この4作目は米軍を離れ単独でイラン過激派と戦うという舞台をかえたもの.車への興味は変わらず上記の他にもいろいろ凝った車が登場する.ただしこれまでの作品ほどは力が感じられず残念と思ったら、これは日本向け書き下ろしなんだそうです.
また、タイトルの通りで航空シーンも沢山あり楽しめる.パイパー・ナバホ、セスナ・ターボ210、ピラタス・ポーターなど.(93/01)


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