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Jean VAUTRIN /ジャン・ヴォートラン

パパはビリー・ズ・キックを捕まえられないプジョー504BILLY-ZE-KICK (C)1974高野優訳 草思社 1995

『(シャポーは)ブルターニュ地方に配属されると、サン=マロの警察署でしばらく寄り道をしてからペロス=ギレクに転勤し、そこでジュリエットと知り合った。美しいジュリー。
 ジュジュのあとは、パリ郊外の団地。部屋が四つあるF4タイプのものだ。そこでジュリー=ベルトが生まれた。そして今では<家族>がいて、<有給休暇>があり、プジョー504とカラーテレビがある。これも<秩序>のおかげだ。百パーセント…<秩序>のおかげだ。もうあれから八年もたつ。いつのままにか、八年の月日が流れたのだ。満ち足りた生活……。しかも今、目の前には殺人事件が起こって、彼が手柄をたてるのを待っている。そう思うと、シャポーは殺人事件を捜査する機会を与えてくれた天使たちに感謝した。サイレンの音にあわせ天使たちはいっせいにトランペットを鳴らして、彼の行く手をあけてくれていた。
 そうだ、これが幸福というものだ。いやもっと正確にいうと、これが幸福というものだった。というのも、現場に着くとたちまち風邪がぶり返してきたのだ。』
--COMMENT--
 アラン・ドロン主演映画の監督をしてから小説家に転身したということで、エスプリのきいたフランス作家のなかでもさらに輪をかけた異次元滑稽ミステリだ。解説によると、フランスにおける<ネオ・ポラール:新しい推理小説>のトレンドを収束させた<ロマン・ノワール>というジャンルになり、謎解きはどうでもよく社会の現実、移民や低所得者などのひずみから目を逸らせない…本書もまさにそうでした。多才なんてものじゃない登場人物が凄い?! それにしても本書のタイトルは絶妙だなぁ。この表題を見たら、なんとしてでも読みたくなってしまうもんね。
 シャポー刑事の車はもちろん、プジョー504で決まり!! 引用にでてくる妻のジュリエットは、あるやばいサイドビジネスのための"真っ赤なマトラ"、シャポーの上司がでかけるヴァカンス先の有力者が保有する往年の名車として<ロザリー、ブガッティ、パナール&ルヴァッソール、オッチキス>なんかも紹介されている。(2007.9.11 #507)


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