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WALLER, ROBERT JAMES /ロバート・ジェームズ・ウォーラー

スローワルツの川ヴィンセント・ブラック・シャドーSLOW WALTZ IN CEDER BEND, (c)1993文芸春秋,1994

『1953年の夏の盛り、ダコタというはるかな場所でも、風は熱く、油のしみこんだ服がべたべた体に回り付いた。15歳のマイケル・ティルマンは、エルマー・ニクソンの車のボンネットをあけて、首をつっこんでいた。コンクリートの床に爪先立ち、Tシャツがずりあがって背中が見えるのもかまわずに、マイケルは大型V8エンジンの不規則な音に聴き耳を立て、キャブレターを調節してから、ふたたびじっと耳を澄ました。エンジン音はなめらかになり、落ちつきを取り戻した。 「マイキー、そのくそオールズをはやいとこ片付けちまうんだ。まだあと3台もあるんだからな」灰色の縞のつなぎ服の尻ポケットにフラスクを押し込んで、父親はふらふら歩き回っていた。
 そとの給油スタンドでは、母親が穀物運搬用トラックにガソリンを入れながら、腕で額の汗をぬぐった。7月27日午後4時、ティルマンのテキサコ・サービス・ステーション。あたりには強烈なガソリンの匂いが漂い、緑や白のペンキは色あせて、ぼろぼろ剥がれかけている。目の前の国道16号線には、車の騒音が絶えなかった。
 店の裏手にヴィンセント・ブラック・シャドーが停めてある。マイケルはそのそばに行って、ハンドルにさわった。父親が修理代がわりにこの英国製大型バイクを引き取ったとき、マイケルが自分で修理や整備ができるようになったら、彼にくれると約束した。彼はたちまち修理や整備の方法をおぼえてそれをもらい受け、以来、このバイクは彼の分身のような存在になった。まともな道が一本あれば、そして、エンジンやタイヤやここを出ていく道路について必要な事を学んだら、シャドーが彼をこの町から連れ出してくれるだろう。』
-- COMMENT--
ご存知処女作「マディソン郡の橋」で日本の多くの女性を泣かせたウォーラーの2作目。こんども上にでてくるマイケルがある女性と出合い、運命的な結びつきをするストーリーであり、しっとりとした情感があふれるロマンス。成人になってからもずっとこのバイクを手放さず、彼の人生とともに歩むシャドーが登場してくる。(94/12)


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