lagoon symbol
WESTLAKE, DONALD E. /ドナルド・E・ウエストレイク

嘘じゃないんだ!コルベット、シベット、プジョー、シヴィックTRUST ME ON THIS, (c)1988早川,1991

『「あとからついてきて」四時数分すぎに、玄関ドアの外でフィリスが言った。「私は白いコルベットに乗ってるから」
「じゃあ、あとで」サラは訪問客用の駐車場に向かった。何百人ものほかの従業員はみんな反対方向に流れていく。
サラはわざわざ車にロックをかけたりしていなかった。レンタカーだし、私物は何も入っていないからだ。ところが、グラブ・コンパートメントがあいている。あいたままにしておいたんだっけ? もちろんそんなことはしないは。<ウィークリー・ギャラクシー>にはこそ泥がいるってことかしら。レンタル同意書とレンタル会社のフロリダ地図以外には何も入っていないはずで、それは両方ともそこにあった。出口に車を走らせてそこで待った。キャディラック、メルセデス、ジャガー、トライアンフ、サンダーバードが連なって守衛詰め所の横を通り、空っぽのハイウエイに向かうのを見つめた。別人の乗った白いコルベットが数台通り過ぎてから、フィリスの白いコルベットが現れた。フィリスが笑みを浮かべて、こっちに手を振っているのが見える。サラは手を振ると、シベットをフィリスの車のうしろにつけ、守衛詰め所の横を通った。今朝とは別の守衛が立っていた。背の低い小太りの黒人で、ひどく退屈そうに通過する車の流れをながめている。』
--COMMENT--
最近、本格冒険小説に出会わないので、気楽に楽しめるコミック・ミステリとかクライム・コメディといったエンターテイメントものに手をだしていますが、このウエストレイクはまさにその第一人者。ウィークリー・ギャラクシーというゴシップ新聞社の新米記者サラがイカレた業界で、オカシなヤラセ取材に奔走しながらもみ消されようとした殺人事件を追うといったストーリー。サラが着任したときはレンタカーのシベットで、そのあとは新車のプジョーを買うことになり、上司ジャックは旧型でみすぼらしい赤のホンダ・シヴックに乗っているなど、様々なカーライフのシーンが楽しめる。(95/11)

天から降ってきた泥棒シヴィックGOOD BEHAVIOR (c)1985早川 1997

『タイニー・バルチャーはホンダ・シヴィックを持ち上げて、平台型トラックの荷台に載せた。マスタングの横に収めるためには、自分も荷台にあがって、その車を少し押したり引いたりする必要があった。しかし、それが終わると、小型車がもう一台はいる余裕ができた。ワーゲン・ビートルかマツダか。タイニーは歩道におりて、のそのそと運転台にむかった。運転台のドアをあけて、体のがっしりした赤毛のドライバーに言った。「いいぞ、スタン」
「おい!」誰かがいった。タイニーは自分の巨体を運転台の助手席にすわらせようとした。 「おい! おい、おまえだ!」スタン・マーチが言った。「あの男がおまえを呼んでるぜ、タイニー」
「おや、そうか?」タイニーは両足を縁石におろして、何の用なのか確かめようと、そっちを向いた。「おれにどなってるのか、おまえ?」
「あれはおれの車だぞ!」その男が言った。やけに動揺しているようで、ホンダ・シヴィックを指していた。背は高く、細身で、茶色の髪は薄くなりかけていて、ポロシャツは少しだぶついていた。
タイニーはわざわざ車を見なかった。「そうか?」
「そのう、そのう、おれの車だ!」男はその時点で言葉に詰まってしまい、自分自身の考えを披露できなかった。それとも、タイニー・バルチャーの巨体をはっきり見て、気が散ったのかもしれない。
タイニーは服をきた一種のマストドンであり、一種の低地版雪男であり、フランケンシュタイン博士が怪物を縫合せているときに投げ捨てた部分から作られた生き物だった。この巨大で短気な穿孔盤に見つめられた連中は、通常の場合、これから言うべきことを忘れてしまう傾向にあるのだ。』

--COMMENT--
 天才(かつ不運な)泥棒ドートマンダー・シリーズ第6作。スリルと爆笑で『98このミス』9位ということなのですが、やはりちょっと古いというか、まあコメディー小品かな。超高層ビル最上階に匿われた尼さんを救い出す約束をしてしまったドートマンダーの仲間がしゃあしゃあと車を盗むシーンが上記。(98/01)

逃げ出した秘宝リンカーン・コンチネンタルWhy Me, (C)1983木村仁良訳、早川 1998

『5分ほどして、医師用のMDナンバーをつけたリンカーン・コンチネンタルが近くの縁石にとまった。ドートマンダーは歩道を横切り、暖かく乾燥した車内にはいった。ケルプが言った。「長くかかって悪かった。こんな夜には車を見つけるのが厄介なんだ」
「ただの車なら見つかっただろうよ」ケルプがリンカーンを一番近くの信号に進めると、ドートマンダーが言った。「おまえはMDナンバーにこだわるからだ」
「おれは医者を信じている」ケルプが言った。「医者は心地よさを好むもんだ。苦痛や不快を知っている。連中が車を買うときは、ベストをのぞむし、ベストを買う余裕がある。おまえは何とでも言っていいが、おれは医者の車にこだわるんだ」』
--COMMENT--
 ヘマで不運な泥棒ドートマンダーものの長編第5作。会話が滅法楽しく、気楽に読めるユーモア・ミステリー。なんと、せっかく盗んだルビーが転売できない秘宝で、警察、FBI、泥棒仲間全員から追われる羽目になってしまう。ほかに、宝石屋主人の海老茶色のビュイック・リヴィエラ、おかしなFBI捜査官コンビのアヴォガド色のポンティアック(そんな色の言い方があるのかしら?)、警視正の黄褐色のメルセデスなども登場する。 (1999/03/25)

ジミー・ザ・キッドキャディラックJimmy The Kid (C)1974小菅正夫訳、角川 1977/1999

『州警察官ヒューバード・ダックバンディは、彼がスピード違反者を捕まえるのを可能にしてくれる無印のパトロール・カーに乗り、制限スピードを11マイル上回る61マイルで走行し、秋景色を楽しみながらだれかが62マイルで走るのを待っていたが、そのときいきなりだれかに追い越された。シルバー・グレーのキャディラック、ニュージャージー・ナンバーのWAX361、運転手つき、が出し抜けに前にあらわれ、猛然と突っ走っていったのだ。
 これはこれは。ダックバンディはアクセルを踏み込み、速度計をスタートさせた。妻と三人の子供のいる家へ、年に一万五千二百八十七ドル九十セントを運んでいる男の人生にとって、高級車の運転手に速度違反のチケットをたたきつけることほど愉快なことはないのだ。そらきた、哀れなトンマ野郎が、というのがこの出会いの共通テーマだったが、州警察官ダックバンディにとっては、それは尽きることのない満足の源だった。』
--COMMENT--
 ヘマで不運な泥棒ドートマンダーものの初期の頃の第三作。翻訳は1977年に初版がでて絶版になっていたが、1999年に改版されて再登場した。
相棒ケルプの持ち込んできた誘拐ばなしに、いやいやのったドートマンダーだが・・ ジミーという天才少年の誘拐はすったもんだのあげく、なんとかうまくいき、肝心の身代金をはこぶ父親のキャディラックが州警察にとっ捕まってしまうのが上のシーン。各ページ大笑い保証付きのスラップスティック・ミステリー。
引用した部分の車以外に、赤いカーテンのついたフォルクスワーゲン・マイクロバス、整備良好の白塗りのコンチネンタル、運搬車にのったビュイック・リビエラ、医者のプレートのついたメルセデス、ルノーなどたくさんでてくるが、自動車泥棒が本業のケルプが盗んできた車ばかり。(1999/10/11)

悪党たちのジャムセッションキャディラック・セヴィルNobody's Perfect (C)1977沢川進訳、角川 1983/1999

『「なぜ、ショッピングセンターなんかで会うんだよ」
ドートマンダーは、ワイパーがフロントグラスにつもった雪をかきまわしているのを見守りながらぼやいた。今日の車はやはり医師用のの車で、シルバー・グレーのキャディラック・セヴィルだった。テープデッキがついていて、テープもトム・ジョーンズ、エンゲルベルト・フンパーディンク、そしてパケット&ザ・ユニオン・ギャップのものがそろっていた。<セヴィルは、石油危機と小型車を望む声に応えてキャディラック社が発表したもので、キャディラック・セダン・デヴィルから"ダン・デ"を省略してキャデラック・セヴィルと称し、車体のほうも名称と同じに短く、そして軽くなった>
「どこだって同じじゃないか」ケルプはサザン・ステート・ハイウェーを走る気まぐれな車両の間をぬいながら答えた。
「ヴィクターにショッピングセンターで会って、そこからビーキュリーの家へ連れていってもらうんだよ」
「同じじゃないぞ。いまはクリスマス間際じゃないか。あと一週間でクリスマスだというのに、吹雪の中をロングアイランドのショッピングセンターまで行こうとしているんだ。同じじゃないよ」』
--COMMENT--
 保険金さぎの片棒をかつがされて、絵画を盗むが、いつもの仲間のミスで絵画を無くしてしまって、なんとか思いつきの策略で危機を逃れようとするが、さらに失敗を重ねてしまう・・ドートマンダー・シリーズ第四弾。これでもか、これでもかとトラブルが襲ってくるストーリーは、もう見事。今回も、ちょっと拝借?した車がたくさん登場してきます。(1999/10/21)

ホット・ロックキャディラックTHE HOT ROCK (C)1970平井イサク訳、角川 1972/1998

『ドートマンダーが明るい陽射しの中に出てくると、しばらくの間その場に立って、辺りを見回しているのが、ケルプの目に入った。その時の気持ちがどんなものか、ケルプは知っていた<自由になった最初の瞬間、自由な空気、自由な太陽>。ドートマンダーの喜びを邪魔したくなかったので、待っていたが、ついにドートマンダーが歩道沿いに歩き出すと、ケルプはエンジンをかけ、長く黒い車でゆっくりとそのあとを追っていった。
 それはちょっとした車だった。横の窓にはカーテン、後ろの窓にはブラインド、エアコン、アクセルを踏んでいなくても望み通りのスピードで走り続けるクルーズ・コントロール、対向車がくると自動的にライトを下向きにかえる装置など、ありとあらゆる省力装置を備えたキャディラック。昨夜ニューヨークで、ケルプはこの車を選んだ。今日ここえ来るのに、汽車ではなく、車できたかったので、昨晩車を探しにいき、東六十七丁目でこの車を見つけたのだ。この車には、医者用のナンバープレートがついており、ケルプは、医者用のナンバープレートのついた車を見かけると思わず車内を覗き込むという癖があった。医者はキーをさしたままにしておくことが多かったからだが、この時もまた、お医者様はケルプの期待を裏切らなかった。
 もちろん、今は医者用のプレートなどついていない。州が四年もかけてナンバープレートの作り方を教えてくれたのは、無駄ではなかったのだ。』
--COMMENT--
 ドートマンダー・シリーズの第一作の改版初版をようやく読むことができました。窃盗プランナーのドートマンダーとナンバー2のケルプを中心とするこだわり窃盗グループ、そして医師車好みのケルプなどのフレームができあがっていました。  上のシーンは、小説冒頭でドートマンダーが刑期を勤めあげて刑務所から釈放される朝、ケルプがキャディラックで出迎えたところ。他には、また盗んだ医者のクライスラー、ラヴェンダー色のリンカーン、ずうずうしくもタクシーにしていた四九年型フレーザーや、警察署から仲間を救出するとき使ったヘリ、鉄道線路わきのサナトリウムを突破するために使う遊園地用蒸気機関車、逃げ出すときにハイジャックした5人乗りの単発機"ワコ・ヴェラ"(フランクリンエンジンを積んだイタリア機だそう?)など、楽しい乗り物がたくさん出てきていました。(1999/11/07)

強盗プロフェッショナルパッカードBank Shot, (C)1972渡辺栄一郎訳、角川 1998

『ビクターの車は1938年型の黒いパッカードで、ずんぐりしたトランクと、分離されたリア・ウィンドウ、長い柩のような形のボンネット、尊大な広いフェンダーのてっぺんにヘッドライトが鎮座ましましてる。内装はすり切れたグレーの絹綿ビロードで、ドアのとなりにぶらさがるために革ひもがついており、ドアの間には小さな針金の花瓶掛けがあって造花をさしたグリーンの花びんがかけてあった。
ビクターが運転し、ハーマンはとなりにすわって田舎の風景をみつめていた。「ばかな話だ」彼は言った。「トレーラーをかくすようなものがどこかにあるはずなのだ」
軽い調子でビクターがきいた。「だいたい、どんな新聞を読んでおられますか、ハーマン?」』
--COMMENT--
まあ〜、いろんな窃盗ものを思いつくもんだ・・と感心します。今回は、改築のためトレーラーハウスで営業している銀行ごと奪ってしまおうというアイディアで、上のシーンは、盗んだトレーラーを隠しておく場所探しをしているところ。元FBIに務めていた、おかしなビクターは、やっぱり変なクルマに乗っているもんですね。ほかには、"ふつうのMDプレートのついたオレンジ色のダットサン240Z"、毎回登場する酒場の店主ロロのサーブとボーグ・ウォード(?)、アメリカン・モーターズ・ジャプリンなどが登場する。 あいかわらず、さまざま困難を乗り越え、乗り越え、窃盗が成功しかかるのだが・・。(1999/12/23)

最高の悪運マツダRX7、レクサス、ホンダ・ヴァンWhat's the Worst That Could Happen? (C)1996木村仁良訳、早川 2000

『そして、二人は出かける準備ができた。昨夜、チャーマーズとリムジンを街に帰した。泥棒はを盗んだが、ガレージには管理できる人数の中間管理職員を運ぶホンダ・ヴァンと、小さくて赤い外国産スポーツ・カーの代表であるマツダRX7が残っている(小さくて赤い外国産スポーツ・カーはかってイタリア製かフランス製だったが、時代は変わったのだ)。破産裁判所の判事にはホンダをくれてやるから、くたばっちまえ。しかし、このマツダは絶対にマックスのものだから、文句は言わせんぞ。
 マックスは小さくて赤いマツダのハンドルを握ると、カーポートの家に最後の一瞥もくれずに、そこから走り去った。そばにルティーシャンを座らせ、頭の中にはヨットの計画でいっぱいだった_喜悦の<ジョイアス号>と名付けよう。それに、昼食を食べるのに、どこに立ち寄ろうかと、ぼんやり思った。水辺のどこかがいいな。』
--COMMENT--
 楽しみにしていたドートマンダーもの長編第9作。盗みに入ったものの、かっこう悪くて恥をかかせられたドートマンダーが怒って、何度も運に見放されながらも、一味のオールキャストをひきつれ仕返しをしかける。いやー、とてつものなく面白い。
 引用したところは、盗みに入られた方の、これもくせ者実業家マックスがマツダRX7で出かけるシーン。ホンダ・ヴァンって、前の方に「12人乗りのホンダ・ヴァン」としてでてくるのだが、ホンダにそんな車があったかしら。最大でも9人乗りのステップ・ワゴンの筈ですよね。ほかに、仲間が無断借用する医師プレートの車のサーブなんかも登場します。(2001/02/05)

BMWTHE HOOK (C)2000木村二郎訳、文春 2003

『電話とアパートメントに関する決定―もしそれを本当の決定と呼べるのなら―のあと、彼は落ち着かなかったので、午後に《ブレンフォード》に車でいった。コネチカットのこの地域のぐるめ食料品店で、スーパーマーケットでは手に入れられないニューヨーク風の食料品が手に入る。値段もニューヨーク風だ。ブライスが《ブレンフォード》でだけ買う物がある。好みのコーヒーとかサーモン・ディップなどで、そこへ行くのは久しぶりだった。
 真冬の木曜日の午後早い時間で、《ブレンフォード》の駐車場には5割ほど車がとまっていた。大部分がジープ・チェロキーとか、トヨタ・ランドクルーザーのような車で、ところどころにヴォルヴォやサーブ、ブライスの車のようなBMWがある。
 ほかのことがうまくいかないときに、こういう安堵感を味わえる景色をときおり見るのは喜ばしいものだ。自分は一人きりではない、自分は部族の一員である。自分は部族に管理された領地にしっかりと足を着けているという視覚的な印だ。ライセンス・プレートの半分以上はコネチカットのもので、残りはニューヨーク、数台はマサチューセッツだった。夏にはニュージャージーのプレートもあるが、それは廷臣ではなく、宮廷を訪ねてきたただの田舎者だとわかる。』
--COMMENT--
 前作『斧』の姉妹編と言われていて、のっけからどんな結末になるのか、はらはらするようなシリアスな犯罪ものだった。妻殺しを頼んだ売れっ子ミステリー作家ブライスが、自分の著作が進まないばかりか、犯行のプロットについてイメージできないが故に心理的に崩壊していくというオソロシイ展開だった。  ほかに、刑事の「黒っぽい栗色で、さらに埃だらけの小型シェビー」、家政婦の「オレンジ色の小さなホンダ・シヴィック」、ゴーストライターの「フォレストグリーンのトヨタ・ランドクルーザー」などが出てくる。ミステリーでランクルが登場するのは久しぶりだ。(2003.8.18)

骨まで盗んでヒュンダイDON'T ASK (C)1993木村仁郎訳、早川 2002

ヒュンダイのダッシュボード・ライトの琥珀色の輝きの中で、グリグは大きく開いた目で地図を見た。「地図を持っているんだな」
「もちろんだ」ドートマンダーは答えた。
「さすがプロた」グリクの低い声は賞賛のせいでより低くなった。「あんたかとうやるのか、わからないな」
・・・
「さあ、そこへ行こうじゃないか、いいか?」
「もちろんたよ、チョン」
「ジョンだ」
ヒュンダイの洗濯機のようなエンジンをかけて、グリクが悲しげに言った。「あんたかわたしの名前をうまく言えるように、わたしもあんたの名前をちゃんと言えたらいいんたかな」
「うん、そうだな」
首を横に振りながら、グリクはヒュンダイのギアをがくっとドライヴに入れ、車を<キノハハ>の広大な駐車場から―ロビーとほとんど同じぐらいに大きい―よろよろと公共道路に出した。』
--COMMENT--
 ドートマンダー・シリーズ8作目は、東ヨーロッパの新興国が国連加盟の鍵となる聖少女の骨の争奪戦に加わる・・とてもきれのよい骨の髄まで楽しいミステリーだった。
"ジョン"とどうしても発音できず"チョン"というくだりは、もう何回もでてきて、その度ごとに爆笑だ。ついに米国ミステリでも韓国車が登場する時代になっわけだ。敵役の国の大使の「ラーダV-27」、私立探偵の「ランボルギーニ」などもでてきていた。(2003.8.27)

バッド・ニューススバル・アウトバックBAD NEWS (C)2001木村仁郎訳、早川 2006

『誰かがグランド・チェロキー・ジープ・ラレドを盗んだためか、どこかの警官が出世に役立ちそうなその車の将来性に目をとめたため、ケルプはスバル・アウトバックを見つけてきた。それは標準的な医師プレートがついているうえに、四輪駆動車なので、ニューヨーク・シティの北にある凍った荒涼地では好都合だ。ケルプは喜んでいたが、その車の正式な所有者は女医で、子持ちだった。後部席がべたべたすると、タイニーは苦情を言い続けた。
 そのスバルにかんしてドートマンダーを煩わせた唯一のことは、半径百マイル以内で屋根の上にスキー・ラックがない唯一の車だということだ。非常に目立ちやすい。「ほかの車からスキー・ラックを盗まないといけないな」彼が提案した。「紛れ込むために」
ケルプが言った。「いや、おれたちはここに長くいない。それに、ラックのあと、おまえはスキーをほしがるだろう」
「いや、それはない」ドートマンダーが言った。
 彼らはけさここまで車でやって来た。インディアンたちが墓でつかまったというフィッツロイ・ギルダーポストからの電話の翌日で、彼らには何もできないと誰もが承知しているのに、何ができるのだろうと調べに来たのだ。間違った遺体が監視され、間違った遺体のDNAがリトル・フェザーのDNAと照合される。』
--COMMENT--
 4年間も待ちに待ったドートマンダー・シリーズの第10作は、ほかの詐欺グループの手伝い仕事に嫌気が差してこちらの仲間ケルプとタイニーとでのりこんだのはいいが、事態は悪化の一方。それに対抗するために、これでもか!!これでもか??とワル知恵を発揮させるところが、もう芸術の領域だ。エンターテイメントとしてとことん楽しめる。上の引用にでてくる《インディアンたちが墓でつかまった》がまさにタイトルの"Bad News"だ。
 ドートマンダーがショッピングセンターにドロウボウに入ったとき使う"40分前に拝借してきたホンダ・プラトゥーン"、詐欺グループの"怪しげなカリフォルニア・ナンバーのついた黒いエコノライン・ヴァンと、同じく怪しげなナンバー・プレートのプリマス・ヴォイジャー"、自動車窃盗の専門のケルプが最初に調達した"大型の郊外向き軍用車両のグランド・チェロキー・ジープ・ラレド、その外観は、マラスキーノ漬けのサクランボのような赤に、ワッフル模様のトレッドを持つ巨大な黒タイヤ、当然ながら医師プレート付で、その両側には地球の資源を守ろうのステッカーがたくさん貼り付け!!"、インディアンの娘の"パステル・グリーンで全長40フィートのクローム製モーターホームの最高級車両、ウェスタン・レクリエーショナル製アルパイン・コーチ"、部族の使い走り青年の"古いオレンジ色の小型スバル"、逃走車ドライバーの"黒のホンダ・アコード"、それに冬のクリーヴランド・ホプキンズ空港で調達する大型除雪作業トラックなんというのも騙し演出の大道具として登場する。(2006.9.27 #438)

忙しい死体シヴォレーTHE BUSY BODY (C)1966木村浩美訳 論創社 2009

『「勘弁してくれよ、ケニー」エンジェルは言った。「この代物はなんていう名前だ?」
「シヴォレーさ」とケニー。「ご注文どおりの。二、三年もの、色は黒、ナンバープレートに泥はね。ブルックリンの街並みに溶け込む、すすけた目立たない外見。スピードと加速は問わず。トランクにシャベル二本とバールと毛布を入れてある」
「だけど、こいつはエンストばかりしている」エンジェルはケニーに言った。「エンジンをかけるといきなり飛び出して、それから止まるんだ」
「ほう?」ケニーが近づき運転席の窓から車内を覗き込んだ。「ああ、あんたはクラッチに足をかけていないからいけないのさ」
「おれのなに?なんだって?」「それだよ、左足の傍にある」
「この車、まさかマニュアル車なのか?」
「条件に合うのはこいつだけだったから」ケニーは言った。「なんなら、白のコンバーティブルかパウダーブルーのリムジン、赤のメルセデス190SL…」
「目立たない車がほしいんだ!」「じゃ、パールグレーのロールスロイス、ピンクとブルーとターコイズブルーのリンカーン・コンチネンタル、金色と青緑のアルファ―」
「わかったよ。もいいい。もういいって」「なんでもお望みのままだよ、エンジェル。ここにある車なら」ケニーは大きな身振りでガレージ全体を示した。
「これを借りていく。まぁいい、とにかく借りてさ」こうして、エンジェルは赤信号のたびにエンストを起こしてブルックリンまで車を走らせた。もう何年も、左足は車内でラジオの音楽にあわせて拍子をとるぐらいの役目しか果たしていなかった。』
--COMMENT--
 ウエストレイクの初期7作目で、ニューヨークのギャング組織の若手の幹部エンジェルがボスに命令され組員の墓に埋められたヘロインを掘り出しにいかされたものの、次々に思いがけない謎が出来してくる。スラップスティックな展開がなかなか楽しいし、エンジェルもしたたかで格好のいい主人公になっている。
 引用は、墓の掘り出しにいく車に難渋するシーン、さすがギャングの御用達ぴったりのクルマばかりだ。警官に追われて突っ走るときに、TR2やバラクーダなんかとも衝突しかかる。アリバイ作りの乗っていたはずの車は”白のポンティアック・ボンネヴィル・コンヴァーティブル”、謎の女の"白いメルセデス190SLコンヴァーティブル"などが登場する。(2009.10.14 #612)


作家著作リストW Lagoon top copyright inserted by FC2 system