lagoon symbol
Robin A. White/ロビン・ホワイト

永久凍土の400万カラット白いランドクルーザーThe Ice Curtain (C)2002鎌田三平訳 文春 2008

『チューチンは大きなでこぼこを慎重に避けながら、トヨタの白いランドクルーザーを走らせた。パーツ漁りにはかけては名人級のチューチンは、頑丈な日本製のボディにロシア製のヘッドランプ、ワイパー、それにホィールを移植していた。だが、基幹部品を交換することなど、考えたこともなかった。
 この車は、ノーヴィックがまだマルコヴォ市の市長を務めていたころに贈られたものだ。日本の実業家のグループが、マルコヴォ周辺に広がる針葉樹林を伐採する許可をノーヴィックに求めていた。ロシアで事業展開した経験をもつ実業家たちは、便宜をはかってもらうためには贈り物が必要であることを知っていた。だが期待通りにはいかなかった。
 ノーヴィックは車を受け取って申請は却下した。その当時これよりいい車を持っていたのは、マフィアだけだった。シベリアの道を2年間走り、チューチンの改造変更を受けた現在、ノーヴィックのランドクルーザーは、ぬかるみで戦車戦に巻き込まれて生き残ったかのようなありさまだった。』
--COMMENT--
 ロシアを舞台にした軍事・冒険ミステリ・シリーズの6作目であり、シベリアの辺地で産出するダイヤの密売と国際カルテルとの戦いに迫る。地下1000mもの秘密鉱床からの脱出、主人公ノーヴィック救出のためミールヌイに向かうヤコブレフYak-40ビジネスジェット機のフライトなどこんなにスリル溢れる冒険アクションは近年では珍しく感激もの。また、市場化で混乱するロシアの経済・社会が背景として詳しく描かれていて興味がつきなかった。すごい取材力にも感銘を受けた。
 引用は、主人公を補佐する猛者チューチンが使うランドクーザー。ほかに<鉱石運搬用巨大ダンプのベズラ7530>、<大きな黒い恐竜のようなチャイカ10>、<居丈高のしゃれた外国車に押しのけられて小さくなって走るラーダ>、<1986年製のおんぼろジグリ>など様々なロシア車がいっぱい登場する。(2008.3.14 #537)

凍土の牙HMVSiberian Light (C)1997鎌田三平訳 文春 2003

『ノーヴィックはデッカーのあとにつづき、事務所のある建物の裏に一列にならんでいる小型の乗り物のところへ行った。パイプでできたシャーシの上に座席が四つボルトでとめてあり、丸い枕ように膨らんだ大きな柔らかいトラクター用のタイヤがついている。後部の平らな荷台の横に、円筒形の圧力タンクが載っている。デッカーが運転席に飛び乗った。ボタンを押しとエンジンが息を吹き返した。彼はもどかしそうにノーヴィックに乗るように合図した。
「これはなんという車だ?」
「HMV−ハイ・モビリティ・ヴィークル。おれたちはムーンバギーと呼んでる」デッカーのアクセントには苦いブラックコーヒーの味のようななにか一風かわったものが混ざっていた。「アメラス特製につくらせたものだ。ガス・ハイドレートを燃やす」』
--COMMENT--
『永久凍土の400万カラット』の前編にあたる、ロシア軍事・冒険ミステリ・シリーズの5作目。シベリアの辺境の地で米国系油田開発会社の周辺人物と民警が殺される事件がおき、マルコヴォ市長ノーヴィックが周辺の妨害にあいながらロシア社会に巣くう不正を暴こうとする。ストーリーにおりこまれるシベリア・タイガー保護活動なども興味深い
 地味な展開の前半をなんとか堪えて読み進むと、その後は、地元のオンボロ航空会社の複葉輸送機(アントノフ・アヌーシカAN-2)のフライトやベル・ヘリコプターからからの攻撃、ノーヴィックたちが乗るムーンバギーが今度はチヌークに攻撃されるという派手な空中・地上戦アクションがたっぷり用意されている。市長の専属ドライバーが操るトヨタ・ランドクルーザーも本作から登場していた。(2008.3.26 #539)


作家著作リストW Lagoon top copyright inserted by FC2 system