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WOODS, STUART /スチュワート・ウッズ

草の根ワゴニア、ホンダ、トヨタGRASS ROOTS, (c)1989文芸春秋,1994

『ウィルは吐息をついた。「そうだな。キャンペーン中、どのくらい来てくれるのかな?」
「ぜひとも誤解のないように。ぼくがフルタイムでつくことになったら、費用はいまの三倍になりますからね。ぼくの仕事は、メディアという観点からあなたの作戦を監視し、アドバイスをすりことです。ぼくの意見は真剣に受けとめてくださいよ。キャンペーンの運営に関してぼくほどよく分かっている人間は、あなたのスタッフの中にはいないようだし、ぼくの意見はよく考えた上で述べることなんですから。」
「ああ、わかってるよ」ウィルは心底そう思った。
「外のワゴニアはあなたのですか?」
「そうだが」
「処分するんですね。フォードかシヴォレーにしてください。どちらも組立工場がアトランタにありますから。ワゴニアをつくっているアメリカン・モータースはどこの会社かわかりゃしませんしね。あれを組み立てる連中は、ジョージアの選挙民じゃない。あなたのスタッフには絶対に外車を使わせないこと。とくに高級車はダメだけど、たとえホンダやトヨタでもね」
「たしかにそのとおりだろうな」』
--COMMENT--
米国上院議員が病にたおれたため、急遽議員第一秘書であるウィル・リーが上院選挙に出馬する。上記は選挙参謀のトム・ブラックとの会話であり、とくにジョージアのような保守性の強い地域では当然の話題になるんでしょう。物語は、選挙キャンペーンに他勢力の妨害活動がからまるサスペンスへ展開するが、その内幕がとても興味深い。ほかに、白人至上主義者グループの車がトヨタやボルボ・ステーションワゴンで登場するが、なるほど全部外車を使わせています。(94/06)

LAタイムズポルシェほか L.A.TIMES, (c)1993文春,1995

『駐車場にたどりつくと、若い係員が近づいてきた。
「ミスター・ヴィンセント、あちらで男の方がお待ちになっています。」そういって係員は、駐車場の反対側を指さした。
 マイクルは男に歩み寄って、車をしげしげと見つめた。
「ミスター・ヴィンセントですね?」男は片手を突き出してきた。「わたしの名前はトリオ。どうでしょう、この車は?」
 マイクルはゆっくりと歩いて、車のまわりを一周した。新車のポルシェ・カブリオレ。塗装はメタリック・ブラックで、内装は黒のレザーで統一されていた。「車両登録証はあるかい?」マイクルは尋ねた。
 トリオと名乗った男はブリーフケースを開き、マイクルに書類を手渡した。「正真正銘の本物です。すべて、あなたの名前で登録されてますよ」
「どうやったんだ?」
「自動車登録局に仲間をもぐりこませてあるんですよ」男は周囲を見回して、だれも聞いていないのを確かめた。「車を手にいれたときには、もう廃車になった車の番号が準備できているという仕組みです。この車の走行距離は、実際には150マイルにも達していません。しかし、登録上は去年のモデルということになっています。だからスピードメーターを細工して、走行距離を4800マイルにしておきました。マイクルはブリーフケースをあけてぶあつい封筒を取り出し、トリオに手渡した。「約束どおり、現金で2万5千ドルだ」』
--COMMENT--
『ニューヨーク・デッド』1991、『サンタフェの裏切り』1992につづくご当地もの第3作目だが、たまらなく映画好きのマフィアの取立屋がL.A.で映画プロデュースをしてヒット作を生み出す。その野望と裏腹の冷酷無比なたくらみが終局にむかう。映画作りの業界話などが、新鮮でとても面白い。(95/05)

パリンドロームPalindrome(c)1991チェロキー矢野浩三郎訳、文藝春秋 1997

『リズは吹きつける秋風を顔に受けながら、舷側の手摺にもたれていた。今日は労働祝日の翌日である。こんなに楽しい想いをするのは、ずいぶんひさしぶりのような気がする。彼女はいま、アルドレッド・ドラモンド号というフェリー上にいる。もともとは海軍の上陸用舟艇だった船で、二十分前にフロリダのファーナンディーナを出航したばかり。前方には、カンバーランド島がぼんやり浮かびあがって見える。いまこの瞬間、彼女の本の出版社と弁護士をのぞけば、この地上のだれともいっさい連絡を絶っている。−そういう体験はまったく初めてのことであり、考えてみれば空恐ろしい気がする。
 フェリーにはリズの新しい車である、黒いチェロキーのジープのほかに、島のホテル"グレイフィールド・イン"のヴァンが載っている。彼女は身を反らして、チェロキーの窓に映る自分の顔を見やった。この二ヶ月間は、鏡を見るのを避けてきた。いま初めて、風にひらひらする麦わら帽子の広い鍔のしからこちらを見返している。』
--COMMENT--
読み応えのあるミステリーを発表してきているウッズだが、このジョージア州沿岸の未開のカンバーランド島を舞台にするスリラーも大迫力だった。写真家リズが、人気フットボール選手の夫の暴力から逃れるためきた島にも夫が追ってくる。その前に、島全体を所有する富豪の家族の秘密やら、密かに元夫を追う刑事やらハリケーンが襲ってきたりで、実際に襲われるシーンは最後の最後でしっかり読者はじらされること請け合い!
 リズは、はじめはメルセデス・コンバーティブルだったが、これを売り払って買ったのがチェロキー。島の山野、海岸などを走り回るのでぴったりの設定。それにしても、90年代の冒険ものにチェロキーが登場するケースが多くなったような気がします。以前の主役は、なんと言ってもランクルだったんですがね。
 なお、タイトルのPalindromeとは、訳者あとがきに説明されていますが、上から読んでも下から読んでも同じになる「回文」のこと。文中に登場する一卵性双生児のことを暗示しています。(1998/08)


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