lagoon symbol
Carlos Ruiz Zafon/カルロス・ルイス・サフォン

風の影スチュードベイカーLA SOMBRA DEL VIENTO (C)2001木村裕美訳 集英 2006

『すばらしい天気だった。ぬけるような青空がひろがり、海の香りがする透明でさわやかなそよ風が吹いていた。ぼくは秋のバルセロナが好きだ。この時期になると、都市の魂が通りをさっそうと駆け巡り、ぼくらも<カナレータスの泉>の湧き水を飲むだけで、知恵がついたような気分になってしまう。不思議なことに、この季節だけは消毒薬の味のしないのだ。
 街頭の靴磨きや、コーヒー一杯のんで朝の休憩からもどってくるうだつのあがらない会社員や、宝くじ売りや、点描画家顔負けの念入りさでのんびり街をみがく清掃員の一団と行き違いながら、ぼくは通りを速足で歩いた。このぐらいの時間になると、バルセロナにはもう車があふれだす。
 バルメス通りの信号のあたりで、両側の歩道にひとかたまりになって立つ会社員たちの姿が目についた。彼らは一様に灰色のレインコートを着て、ネグリジェ姿のプリマドンナでも見るように物欲しげな目でスチュードベイカーを眺めている。
 信号、路面電車、車、オートバイをうまくかわしながら、ぼくは、バルメス通りからグランビア通りまで歩いた。』
--COMMENT--
 別格のハリポタ、ダヴィンチコードを除くと、2006年に大評判となったスペイン人作家によるミステリ・ロマンの大河小説。物語が濃密すぎて久しぶりに、読み終わるまでが大変だったのだが、世界37言語で訳出…各国でロング・ベストセラー…と、世のなかには本書のような本格ゴシック風小説好きが多いことにも驚いた次第。
 引用は、1954年、古書店の息子の<ぼく>が、注文された本を届けにいくシーン。バルセロナの街の描写がとてもいい。唐突にでてくる<スチュードベイカー>がなぜそれほど憧れの車なのか不明であった。ほかには、大財閥のメルセデス・ベンツなんかも登場する。(2007.7.06 #490)


作家著作リストW Lagoon top copyright inserted by FC2 system