区立図書館を考える走り書き通信 1号
   中野区民誰もが「図書館のある町」で暮らすために
                                      2003/8/20
                                      鈴木由美子

 「民活」という安易な民営化美化論や、現実離れしたNPO幻想が渦巻いているなか、冷静に現実を見つめて考えましょう。

 今、全国で広まっているのが、官製のボランティア組織、NPOまがい団体です。特徴は、住民参加、夜間休日祝日開館などを掲げ、そこで働く人を雇用契約でなく、最低賃金以下の報酬で図書館サービスに従事させるものです。

【例1】群馬県太田市の市民生活部学習文化センターによる「NPO太田市図書館サポーターズ」への業務委託
 サポーターズ会員への報酬は昼は一時問500円、夕方以降は600円。他に交通費一日50円。「群馬県の最低賃金639円以下とし「雇用契約でなくあくまでも図書館運営等に生きがいを持って奉仕することにより、低額の報酬を得ることに賛同する会員であるとして了解済み」の会員49名。

【例2】宮崎市の図書館運営へのNPO導入
 宮崎市の文書から。市民が行政と協力、協調しあう場として<受け皿となるNPOはまだ設立されていないため、ボランティア経験者や元教諭らで検討委員会を発足〜宮崎市は、福祉など多くの分野で主婦ボランティアを使う市政>  自発的に子どもの本の活動をしてきた宮崎市の民間グループは、行政に突然「タダ働きの下働き」を命じられるのは間違いとして反発。NPOは先躯的自発的な活動のはず、と。

【例3】茨城県牛久市のNPO有償ボランティア
 市中央図書館が「NPOで図書館運営に協力できる方を募集します〜NPO有償ポランティアの募集要項」を出して人集め。  報酬は一時間560円。交通費は支給予定。18歳から60歳まで。(注:茨城県の最低賃金は644円)

 民間委託には営利団体への委託と、非営利団体への委託があります。23区立図書館の委託先営利企業は、図書館流通センター(TRC)、丸善など図書館を専門とするところ、アシストなど一般派遣業者などがあります。

〔営利企業への委託〕

 他区に先がけて図書館の窓口業務民間委託をした江東区で見たものは、委託料として区が一時問1600円余り払い、働き手に払われるのが800円台。区の税金が企業に吸い込まれるだけです。この給料では適性のある人を得にくいうえ、人の交替が激しく、新人が約束の研修もろくにされずに送り込まれるので、守秘義務もプライバシーも聞いたことのない人がカウンターに配置される状況。警察がカウンターに聞きにくれば館長に取り次ぎもせず窓口で利用者のことをしゃべり、個人情報を自分の利益に悪用するパートまで出るありさまに背筋が寒くなりました。
 無所属の江東区議全議員は「漢字が読めない人が図書館の仕事をしている」という苦情を受けています。
 TRCのひどさはあちこちに伝わり、文京区がTRCを指名停止にしようとしたら情報が漏れ、寸前に社が指名辞退を出して、不名誉を免れた状態です。 「これなら1600円余りをまるごと使って非常勤職員を雇い続け、区内の雇用を増やし、わが町の図書館員を育てたほうが、江東区民の税金を生かす道ではないか」と私は江東区の中心館の館長に聞きました。すると、課長級館長の答えは「いや、非常勤を雇うと、労働運動をされるというリスクがあるんですよ」
 労働運動の忌避。これが、各区当局の本音にあります。いま各区はTRCよりはややましな営利企業に委託をという方向に流れていますが、人の入れ替わりが激しく、研修なく不適切な人材が送りこまれることは不可避ではないでしょうか。

〔非営利団体への委託〕

 現在ものすごい勢いで、役所主導のボランティア団体、NPOまがい団体がつくられています。公務を委託される非営利団体と称するものは、前項に挙げたごとく、役所が、ただ働きに近い待遇で、主に女性をかきあつめて補助的労働につかせるものです。
 そして、労働三権をあたえず、社会保険もなし。人は誰でも、18歳から60歳あるいは65歳までの時期には、経済的自立をして、社会保険料を負担し、老後の自立の準備をせねばなりません。官製ボランティアは、終身雇用や年功序列賃金の時代が終わり大多数の夫婦が本格的な共働きをしなければならない時代に逆行しています。そして男女平等、男女共同参画の原則にも。

 非営利活動は、本来先躯的、自発的なものです。中野にある「東京こども図書館」は全国の児童図書館員が学びにくる水準にあります。私の属する投稿誌「わいふ」編集部も、「日本で最初」のさまざまな分野を切り開いてきました。
 権力を持つ者の命令下に置かれず、自分の創意で、自分が決定権を持って活動できるから、お金儲けにならなくても頑張れるのです。それとて、他に収入の道を持つ人しかスタッフとして長く続けられないという限界の中での活動です。

役所に動員された「ボランティア」が、長続きするとは思えない。図書館にいつづけてはしい人ほど、他の待遇のいい職場に移ることになるでしょう。

 最近は、NPOにヤミ金融や暴力団の参入があるため、認証されるのが(東京では特に)むずかしい。自発的な安定した組織、人事経理面が確かで情報公開にたえる団体しか認証は不可能です。中野の区職員が市民に対し「NPOつくったら」と気軽に口にするのは、現実社会を知らないからです。
 中野でもしNPO委託がなされたら、役所特有の横並び意識で、待遇は、前項の自治体のような「決して最低賃金には達しない」ものになるでしょう。非常勤職員の給料を保証するという口約束がされているという噂ですが、システムを変更すればホゴにできることです。雇用契約ではないし、そのときはもはや組合員ではないので守る所はありません。(組合員だったとしても正規職員らが非常勤職員を守るかどうか?疑問ですが)

 さて、小林氏の山梨県下の事例は…
○ご自身は土地の名士で発言権があり 図書館が空白状態の町村での活動なので自由が認められている
○今つくっている自治体は、町起こしの核に図書館を考えているので年350万400万報酬のNPO司書、などという予算がつきやすい。

ブームが去ったあとこの水準の人件費が維持できるか。またボランティアの大量起用を含んだ案なので、こっちばかりになる可能性もある。私自身はそういう印象を持ちました。
 すでに図書館がある場所で、役所が呼びかけてつらせたNPOに、創意工夫の余地 の少ない補助的な仕事だけまかせるという中野区の路線とは、まったく違う路線のものです。魅力的な語り口(カリスマ説法師と呼ぶ人もいる)、ご自身の図書館への思いには、学ぶものが多いだろうと思います。個性的な方なので、図書館論について論争を産むきっかけになるかもしれません。

 大事なことは、条件の違いを無視して、NPO図書館の小林さんの話が魅力的だった、だから中野のNPO委託はいいのだと、安易な結論に結びつけないことです。中野区正規職員には100人前後の司書資格取得者(その多くは公費による)と、かなりの数の非常勤司書がいます。効率的な運営をし、図書購入予算を回復しつつ、人的財産をどう生かし、地域図書館にもいい図書館員のいる状況をつくることを考えていくべきでしょう。当局見解とは逆にですが、小さな図書館の窓口にこそ、「こういうことのわかる本を」という相談に応じることのできる専門職員が必要なのです。

 中野区のどの地域に住む人も、介護や育児で行動範囲の狭い人も、心身にハンディキャップのある人も、最高の図書館サービスを受けられるように。原点から議論が起きることを期待します。


※ この文書は、著者の許諾を得て当連絡会が掲載しています。印刷資料からOCR読込をしているため、変換ミスが残っている場合があります。お気づきの際は、「中野の図書館を守る連絡会」へご連絡ください。
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