区立図書館を考える走り書き通信 3号
                                      2003/10/10
                                      鈴木由美子

 区立図書館の民間委託問題について、一緒に考えるために発信を続けています。

〔思いは共通なのですが〕

 中野の区立図書館にいっぱい本を買ってほしい、身近な地域図書館をなくさないでほしい、窓ロで本の相談に応じてくれる有能な図書館員(とくに非常勤やアルバイトさん)にはこれからも中野区の図書館利用者のために働き続けてほしい。〜このへんでは、多くの人々の思いが一致します。

〔市民に見えない水面下交渉〕

 区長が、図書館の非常勤職員に「NPOを作って委託受けたら」と勧め、雇用の継続に 変わるものとして自らNPO法人をつくる動きが生まれました。それを区職労役員や複数 の区議が「委託はあなたがたにいくから大丈夫」と励ましている、ある議員は非常勤よりNPOのほうが報酬が上がると言い、別の議員はNPOなら報酬は当然下がると言っているという話も広がっているのですが、水面下での交渉内容は、私たち一般市民にはまったく見えません。図書館を思う市民は、戸惑いの中にいます。私自身も、戸惑ったまま沈黙していないで、自分の考えを発信しようと思い切るまでに時間がかかりました。
※ この一節について、区議のお一人から寄せられた異論を走り書き通信4号で紹介しています。あわせてお読みください。(2004年2月筆者追記)

〔NPOの三文字に広がる幻想〕

 山梨県の小林是綱さんを招き、議論の場を開いてくださった方々に感謝しています。私もあの会をきっかけにいろんなことを調べ、自分の考えを形成することができました。
 ただ、NPOをめぐる話し合いの場は、議論がかみ合わないままです。私が他の自治体でみた役所主導のニセNPOインチキNPOを批判したら「スズキさんのようなNPOパッシングは民間委託を推進することになる」という非難を受けることになりました。非営利活動の中で長く生き、収入のかなりの部分をそこで得てきた自分がNPOパッシン グ」なんかしたら自分自身を全部否定することになるじゃないの、と笑い出してしまいました。綺局、NPOって何なのか、基礎知識が普及していないのですね。
 中野でNPO委託を推進しようと思っている人が、NPOの三文字や「協働」「市民参加」「市民とともにつくる」「対等のパートナーシップjなど、美しい言葉だけを語るだけなのをもの足りなく思います。「中野では、スズキさんが指摘した他の自治体のニセNPOと全然違う、これこれこういう本物のNPOを考えている」と受けてくだされば議論は噛みあったのですが、NPOの内実についてはあまり発言がありませんでした。

〔二つの問題をしっかり見つめてほしい〕

 私は、民間委託には、二つの重大な問題があると思っています。
 まず、公務労働の場を営利企業に渡す問題。(これ一つだけが問題だと思っている人々もいます)
 もう一つは、公務労働の場を、勤労奉仕の場にすりかえて超無権利労働者をつくり出すという問題。NPO・サポーターなど流行の言葉が散りばめてあるのが特徴です。
 役所がつけた名称はNPOでも、サラリーマンとして通勤し、時間と場所を拘束され、管理職の指揮監督下に置かれて働く日常は労働者そのもの。なのに雇用契約ではないため労働者としての権利が一切ないという集団が各地につくりだされています。
 先月の十勝沖地震のとき、商品陳列棚が倒れていた、あれが図書館の本棚だとして、区職員とNPOメンバーが下敷きになって骨折したと考えてみてください。さて、労災としての補償は両方に出るのでしようか。
 20年以上前、新宿西口パス放火事件で多くの人が被害を受けたとき、職場帰りの女性たちは、デパ地下で買った食品を持っていたために労災認定がすぐに出ませんでした。大論争を経て「通常の通勤路から外れずに家事に必要な買い物に立ち寄ったあとも労災と認める」という決定が出たのです。「家庭責任を負う男女労働者の権利」という文言をILOが使いはじめて間もないころでした。
 育児休業法が通るまでには、国会で20年以上の苦闘が必要でした。パートタイマーの法的保護も少しずつ進展しています。労働の場での権利は、安易に白紙にもどしていいものではありません。
 是綱さんの全開催に関与している区職労役員の方は、私が「労働法の外に置かれた働き手をつくる計画に労組が加担するとは」と批判したことで、気を悪くなさったかもしれません。しかし自分たちが同調した「NPO」委託路線で、自分たちと同じ職場に出勤して働く「労働者」に対して、どういう権利が付与されるべきなのか。組合関係者なら見解を発表する責任があると思っています。

〔高知で本物のNPO図書館がスタートしてみれば…〕

 市民の力で新しい児童図書館をつくり出していった素晴らしい例もあります。
 県立図書館がよそへ移転するという計画があったので、文庫活動をしていた市民らがそこに手持ちの膨大な児童書を持ちこみ、自分達の手で図書館をつくろうと計両。図書館移転は取りやめになったものの、高知県は消費生活センターがあった空き家の建物を4000万円かけて改修して「NPO法人高知こどもの図書館」に家賃無料で貸し、NPOの手で図書館運営がスタートしました。ここまでは、まさに理想的な「協働」です。私財である二万冊もの児童書を、高知県民の公共財に転換させた市民の働き、県の建物を改修して無償貸与する予算を組んだ高知県の柔軟な働き、どちらもすばらしい。
 さて、問題は運営費用です。毎年新しく本を買う費用がいる、各種の消耗品費もいる、もちろん専従の人件費も必要です。運営費年1300万円の半分は、個人会員と団体会員が年1万円や5万円を出し合い、あと半分は助成金や寄付金から。
 フルタイム労働をしている専従3人の人件費で、1300万円の半分以上になります。一人200万あまりですね。労働日の多さと労働時間の長さを勘案すると、中野区の非常勤職員より、時間あたり賃金は低いと推測できます。
 しかし、助成金を出している県は、金を出せば口も出す。NPOが「人件費」などを取るのが許せない。あなたがたの人件費を半減できないか、ボランティアで働くべきでしょ、そうすれば現存の予算でもっと本が買えるはず、と圧力をかけています。高知県側の希望を試算してみると、やはり一時間500円程度になってしまう。役所はどうしても自治体が関与するNPOをワンコイン労働におとしこみたいのですね。
 専門職としてフルタイム以上の労働時間を働き、休日出勤などあたりまえ、70人ものボランティアを動かす管理職の仕事もこなし、報酬はワンコインにせよと迫られる。
 この図書館の女性館長は、NPO全国組織のホームページに、県からの人件費削減要請を報告、図書館の仕事に責任を持つためには、ギリギリ自分で食べられる程度の人件費が要ることを市民に理解してほしいと書いています。「NPOには人件費が要るという常識を広めて、ワンコイン働き、夕ダ働きを強制する役所の圧力から救ってほしい」という悲鳴が聞こえてくる文でした。
 私個人としては、国土社の「月刊社会数育」10月号には営利企業への委託の批判を、図書館施設計画研究所「としょかん」92号には、役所主導の「NPOまがい組織」への委託への批判を書きました。ご覧になって、ご意見をいただければと思っています。また区議会に友人と二人で陳情書を提出。委託への流れは止めにくいとしても、営利及び非営利民間団体への委託の問題点を議員さんに勉強してほしいという思いで出したものです。それではまた、次の通信でお会いしましょう。


※ この文書は、著者の許諾を得て当連絡会が掲載しています。印刷資料からOCR読込をしているため、変換ミスが残っている場合があります。お気づきの際は、「中野の図書館を守る連絡会」へご連絡ください。
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